研究課題/領域番号 |
17K08868
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研究機関 | 国立感染症研究所 |
研究代表者 |
松山 州徳 国立感染症研究所, ウイルス第三部, 室長 (90373399)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | コロナウイルス / 細胞侵入 |
研究実績の概要 |
我々の2016年の報告では、ヒトの風邪の病原体、ヒトコロナウイルスHCoV-229Eは、患者検体から分離された直後は、細胞表面のプロテアーゼ(TMPRSS2)を利用して細胞表面から侵入するが、培養細胞で継代することにより、エンドソーム経路を通りエンドソームのプロテアーゼ(カテプシンL)を利用するように変異することを示した。さらにこの変異ウイルスは、分化したヒト呼吸器上皮細胞(HBTE細胞)では感染力が著しく弱くなることを示した。これらの結果は、HCoV-229Eは生体内ではエンドソーム経路を避けていることを示唆している。本研究においてこれまでに、HCoV-229Eに加え他のヒトコロナウイルス、HCoV-OC43、HCoV-HKU1も臨床分離ウイルスは細胞表面のTMPRSS2を利用して積極的に侵入することを論文報告した。これで我々の仮説である「生体内ではヒトコロナウイルスはエンドソーム経路を避ける」が正しいことが三種のウイルスで確認されたことになる。一方、米国のグループは、中東呼吸器症候群コロナウイルス(MERS-CoV)がゴルジ体のプロテアーゼFurinを利用して細胞侵入することを報告している。この報告について我々は否定的な見解をもっており、我々の研究を進めるうえで、どうしてもFurin経路を否定しておく必要に迫られることとなった。すこし回り道をすることとなったが、MERS-CoV及び他のコロナウイルスはFurinを使って細胞侵入しないことの証明に成功し、論文報告をおこなった。現在我々は、「ウイルスの細胞侵入経路が自然免疫誘導に及ぼす影響」を調べるために、準備を行っている。また解析で得られた知見をもとに、抗ウイルス薬の作用機序の解析も行っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究においては、HCoV-229Eに加え、他のヒトコロナウイルス、HCoV-OC43、HCoV-HKU1も臨床分離ウイルスは細胞表面のTMPRSS2を利用して積極的に侵入することを論文報告した。これで我々の仮説「生体内ではヒトコロナウイルスはエンドソーム経路を避ける」が正しいことが三種のウイルスで確認されたことになる。一方、米国のグループは、中東呼吸器症候群コロナウイルス(MERS-CoV)がゴルジ体のプロテアーゼFurinを利用して細胞侵入することを報告している。我々はこの経路についてもコロナウイルスの細胞侵入を解析する必要に迫られることとなった。本研究では、MERS-CoV及び他のコロナウイルスはFurinを使って細胞侵入しないことを証明し、論文報告をおこなった。Furinの研究に関わることになったため、当初計画していた「エンドソーム経路と自然免疫誘導」のメカニズムについては、今のところ予定通りに進んでいない。またエンドソーム経路を通らないウイルスを作るための、カテプシン解列部位変異ウイルスの作成についても、今のところ、カテプシン解列部位の特定に至っていない。他方、抗ウイルス薬の検索について、既存薬ライブラリーから抗コロナウイルス活性のある薬をスクリーニングしているが、数種のステロイド系化合物にコロナウイルスの感染を特異的に阻害する効果があることを見つけた。現在作用機序を解析中である。
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今後の研究の推進方策 |
ヒトコロナウイルスは、エンドソームと細胞表面の両方の経路を通る潜在性を持っている。「エンドソーム経路と自然免疫誘導」の解析を行うために最も有効なツールとして、「エンドソーム経路しか通らないウイルス」と「細胞表面経路しか通らないウイルス」を作成する。「エンドソーム~ウイルス」については、MERS-CoVですでにその候補を手に入れているが、「細胞表面~ウイルス」については作成が簡単でないことがわかってきた。なぜならば、カテプシンLが誘導するウイルスの膜融合活性を検出した報告は無く、評価系も存在しないからである。実験の前段階の研究として、まずは、カテプシンLによる膜融合を検出する実験系を開発する必要がある。リポソームとウイルスの融合を利用したアッセイ系を作成し、解列部位の特定を試みる。続いてリバースジェネティックス技術を用いてウイルスヘの変異導入を行い、「細胞表面経路しか通らないウイルス」の作成を試みる。同時に「エンドソーム経路しか通らないウイルス」と「両方の経路を通るウイルス」の比較は現段階でも可能であるので、感染細胞を用いて、細胞の抗ウイルス応答を比較する。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度に必要となることが予想される論文投稿用の費用を確保しておきたかったため。 また抗体作成業者への実験委託において、年度末納品等にかかる支払いが平成31年4月1日以降となったため。当該支出分については次年度の実支出額に計上予定である。
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