B型肝炎ウイルス(HBV)による持続感染者は全世界で約2億5千万人以上おり、世界的な健康問題の一つである。近年の日本ではこれまで80%以上を占めてきた遺伝子型CのHBV以外に、慢性化しやすい遺伝子型Aによる急性肝炎が増加している。HBVに対するワクチン、副作用が大きいインターフェロン(IFN)、ラミブジンやエンテカビル等の核酸アナログ製剤の開発により、感染者数は減少しHBV由来の肝臓病の発症も抑制されてきた。しかし、現行のいずれの治療法も、閉環状二本鎖DNA(cccDNA)として感染肝細胞の核内に存在するHBVのゲノムを排除できない。cccDNAからHBV mRNAが転写されてウイルス遺伝子の発現が続く限り、HBV感染は持続して、発症が抑制されていてもB型肝炎が再活性化される場合もある。 我々はHBV cccDNAの性質をより理解することがB型肝炎の治療に繋がると考え、HBVの塩基配列を解析した結果、遺伝子型間で保存された転写因子E2Fの結合部位候補を複数見出した。HBVの遺伝子発現を制御する転写因子は、C/EBP、ERalpha、HNF4alpha、HNF6、RXR、Stat1、Stat2等が存在し、エピジェネティックな制御も存在する。しかし、いずれの知見もcccDNAの排除に結びついていない。HBxはcccDNAからの遺伝子発現に必須であり、mRNAはcccDNAから最初に転写される。HBxの転写を制御するEnh IにE2F結合部位候補があることはとても興味深い。我々はEnh Iの活性がE2F1で増強すること、またクロマチン免疫沈降法を用いて、HBVのゲノムDNA中のE2Fサイトに転写因子E2F1が結合することを証明した。これらの発見はHBVのライフサイクルがE2F1で制御されることを意味し、E2F経路の多様な阻害剤がHBV感染の治療に使用できると期待できる。
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