研究課題/領域番号 |
17K08872
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研究機関 | 独立行政法人国立病院機構(名古屋医療センター臨床研究センター) |
研究代表者 |
大出 裕高 独立行政法人国立病院機構(名古屋医療センター臨床研究センター), その他部局等, 研究員 (20754162)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | タンパク質複合体構造予測 / ドッキングシミュレーション / APOBEC3G / HIV-1 / Vif / タンパク質-タンパク質相互作用 |
研究実績の概要 |
ヒトのAPOBEC3(A3)ファミリータンパク質は、ヒト免疫不全ウイルス1型(HIV-1)などのレトロウイルスの感染を抑制する防御因子である。しかし、HIV-1の遺伝子産物であるVifタンパク質は、このA3タンパク質をプロテアソーム系による分解へと誘導することで、A3タンパク質の抗ウイルス作用を不活化してしまう。この攻防を理解するため、これまでにA3-Vif間相互作用に重要な責任残基の同定が精力的に行われてきた。また、A3のVif結合領域の構造、ならびにVifの構造もX線結晶構造解析により決定された。しかし、それら相互作用を理解する上で重要な複合体の構造情報はいまだ得られていない。この相互作用の解明は、A3-Vif間相互作用を標的とする新しい機序の抗HIV-1薬の開発にも繋がると期待される。 そこで最も抗HIV-1作用の強いA3Gに注目し、前年度において、まずコンピュターシミュレーションの手法を利用し、A3GのVif結合ドメインとVifの結晶構造をもとに、それらの複合体構造を予測した。当該年度において、このA3G-Vif複合体の予測構造を、別途予測した他のA3(A3F, A3H)とVifの複合体構造と比較したところ、相互作用の類似性が示唆された。さらに、A3G-Vif複合体予測構造の精密化を、別のコンピューターシミュレーション手法、分子動力学(MD)シミュレーションにより実施した。A3G-Vif相互作用インターフェースのアミノ酸側鎖の配向を変更した100種類以上の条件を検討した。その結果、1 ns程度のシミュレーションで、既知のA3G-Vif結合の責任残基の相互作用を維持しつつ、複合体構造も安定的しうるアミノ酸側鎖の配向条件を見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当該年度において、A3G-Vif複合体構造の精密化をし、さらにA3G-Vif間相互作用に関わると推定される候補アミノ酸残基を新たに見出すことをめざした。MDシミュレーションでは、分子の熱運動を観察することができ、熱運動によりさらに安定な構造を探索することが可能である。そこで、MDシミュレーションにより分子構造の精密化が可能と期待した。ところが、前年度に予測した複合体構造のMDシミュレーションを行ったところ、複合体構造の崩壊が見られてしまった。つまり、当初の複合体予測構造は十分に安定な構造として予測されていなかったと考えられた。主たる原因として、A3G-Vif相互作用インターフェースの側鎖の向きが不適切であることと考えられた。そのため、人為的にA3G-Vif相互作用インターフェースの一部側鎖の配向を変えつつ、繰り返しMDシミュレーションを実施した。複合体の予測構造情報は、今後予定している実験的検証の根拠となるため、多くの時間と労力を費やし、予測構造の精密化を行った。 総合的評価として、複合体予測構造の実験的検証を計画していたものの、実行できていないため、やや遅れていると考える。
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今後の研究の推進方策 |
今後、1 ns程度安定化した条件での複合体予測構造のMDシミュレーションを継続し、複合体予測構造の安定性についての信頼性をさらに高める。また、得られた複合体予測構造から、A3G-Vif間相互作用に関与すると推定される、いまだ報告されていない候補アミノ酸残基を抽出する。抽出したアミノ酸残基の複合体形成への関与について、試験管内(in vitro)での実験により検証を行う。A3G-Vif相互作用に重要と考えられるアミノ酸残基についてA3G変異体あるいはVif変異体の発現ベクターを作製し、HEK293T細胞にco-transfectionすることで、VifによるA3Gの分解を評価する。分解が阻害された場合、変異導入により相互作用が低下したことを意味する。つまり、変異した箇所のアミノ酸残基がA3G-Vif間相互作用に関わることを示唆する。 逆に、A3G-Vif間相互作用を安定化させると推定される変異体を複合体予測構造からデザインし、同様にin vitro実験にて検証する。これにより、X線結晶構造解析による実構造決定に向けた基盤情報を提示する。
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