研究課題
自然リンパ球(ILC)は、自然免疫系において機能するリンパ球細胞で、なかでも肺や皮膚、脂肪組織に存在するILC2は、Th2サイトカインIL-5、IL-13の産生を介してアレルギー性呼吸器炎症、寄生虫感染防御、アトピー性皮膚炎等の病態形成に関与する。我々は、肺組織中のILC2にTNF受容体型T細胞共刺激分子であるGITR (glucocorticoid-induced TNF receptor family-regulated gene)が高発現することを見出した。ILCの機能制御にTNF受容体型分子のシグナル経路が関与する報告はなく、本知見はILCの新たな機能制御機構の存在を示唆するものである。そこで本研究は、GITRシグナルによるILC2の活性化制御機構を解明し、これらを標的としたアレルギー性炎症疾患の新規治療法開発につながる基盤技術の確立を目指す。これまでに、GITR欠損マウスにおいて、パパイン誘発性肺炎症が野生型マウスと比較して強く抑制され、肺炎症時のIL-13、IL-5産生ILC2の増加が抑制されることを確認した。さらに、Rag2欠損GITR欠損マウスへのIL-33気管内投与においても有意な肺炎症の減弱が確認され、ILC2に発現するGITRが肺炎症増悪に必要であることがわかった。肺組織より単離したILC2をex vivoにて培養し、IL-33を添加するとIL-5、IL-13産生が誘導される。IL-33に加えて抗GITRアゴニスト抗体で共刺激すると、STAT5依存的にIL-5、IL-13産生が著しく亢進することがわかった。さらに、GITR共刺激はIL-33依存的なIL-2、IL-9の産生、細胞増殖を亢進させることが確認された。以上より、GITRはIL-33シグナルと協調的に作用しILC2の増殖、サイトカイン産生を亢進することが示唆された。
2: おおむね順調に進展している
GITR欠損マウスにおいて、パパイン誘発性肺炎症が強く抑制された。そこでさらに、IL-33気管内投与により誘導される肺炎症について検討したところ、GITR欠損マウスにおいて顕著な肺炎症の減弱が認められた。GITRはT細胞等にも発現が認められることから、T細胞、B細胞を欠損したRAG2欠損マウスとRAG2欠損/GITR欠損マウスにてIL-33気管内投与を行ったところ、RAG2欠損/GITR欠損マウスにおいて、肺組織中の好酸球、ILC2の細胞数が減少し、肺胞洗浄液中の好酸球数、IL-5、IL-13サイトカイン量がいずれもRAG2欠損マウスと比較して顕著に減少し、肺炎症病態の減弱が認められた。このことから、T細胞ではなくILC2に発現するGITRが肺炎症の増悪に寄与することが示唆された。次にex vivo肺組織ILC2においてIL-33刺激依存的なIL-5、IL-13の産生、およびIL-2、IL-9の産生、細胞増殖が、抗GITRアゴニスト抗体の共刺激により亢進した。IL-33刺激依存的なIL-5、IL-13産生のGITR共刺激による亢進は、抗IL-9中和抗体処理により顕著に抑制された。この結果から、IL-33シグナルに対するGITRによる増強効果はIL-9産生誘導を介することが示唆された。実際にRAG2欠損/GITR欠損マウスにおけるIL-33誘導性肺炎症の減弱は、IL-9同時投与により回復した。これらのことから、GITRシグナルはIL33シグナルと協調的に作用し、IL-9産生を介してILC2の増殖、サイトカイン産生を亢進することでアレルギー性肺炎症病態に寄与することがわかった。以上のように、仮説に一致する実験結果が多く得られており、本研究は順調に進展している。
GITR欠損によるILC2活性化の減弱は、IL-9の転写活性化障害が原因であることが示唆されている。In vitroにてILC2をGITRアゴニストで単独刺激すると、IL-33単独刺激と同程度に、NFκB、p38、Erkの活性化が起こる。しかしながらIL-9発現誘導にはIL-33刺激の共存が必須であり、GITR単独刺激ではIL-9発現は誘導されない。IL-33シグナルへのGITRによる増強作用の分子メカニズムは不明である。そこで、IL-33単独、GITR単独、IL-33+GITR共刺激それぞれにおいて、NFκB、p38、Erk、JNKの各シグナル分子の活性化についてウェスタンブロット法にて解析を行い、GITR共刺激により亢進するシグナル経路を特定する。さらに、同刺激条件にて各シグナル分子特異的阻害剤処理を行い、IL-9の転写活性化を制御するIL-33/GITRのシグナル経路を特定する。GITRシグナルは肺炎症時のILC2の増殖と活性化を亢進する。定常状態の肺組織中のILC2細胞数はGITR欠損マウスにおいて正常であり、肺炎症発症の前後でILC2におけるGITRの発現レベルは変化しない。肺炎症時にILC2へのGITRシグナルが活性化されるには、GITRリガンド(GITR-L)発現細胞との相互作用が必須であり、GITR-L発現細胞こそが、炎症を惹起する引き金となると考えられる。しかしながら、これまでにGITR-L発現細胞は特定出来ていない。GITR-L発現細胞の特定のため、パパイン誘導性肺炎症、IL-33誘導性肺炎症を誘導し、炎症の前後での肺組織中の各免疫細胞におけるGITR-Lの発現をフローサイトメトリー法にて網羅的に解析する。候補となる細胞をin vitroで培養し各サイトカイン刺激によるGITR-L発現変化を解析し、GITR-Lによる肺炎症制御機序を明らかにする。
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