研究課題/領域番号 |
17K08879
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研究機関 | 三重大学 |
研究代表者 |
緒方 正人 三重大学, 医学系研究科, 教授 (60224094)
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研究分担者 |
竹林 慎一郎 三重大学, 医学系研究科, 講師 (50392022)
大隈 貞嗣 三重大学, 医学系研究科, 助教 (70444429)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 慢性炎症 / 代謝症候群 / 細胞老化 / MAPキナーゼ / エピゲノム / 遺伝子改変マウス |
研究実績の概要 |
生活習慣病やがんなどを含む多くの疾患で、慢性炎症がそれらの原因や促進因子と考えられるようになってきた。肥満は脂肪組織の慢性炎症を生じ、細胞老化も老化随伴分泌現象によって炎症環境を提供することから、肥満や老化がこれら疾患と関連する中で慢性炎症がどのように制御されどのような役割を果たすか注目されるところである。最近、代謝系の変化がエピジェネティックな機構を介してがん化を生じることが報告された。また、糖尿病でも高血糖に伴うエピゲノム変化が報告されている。 肥満や老化における代謝変化がエピゲノム変化を介して慢性炎症に影響を及ぼし、それが疾患の原因や増悪因子になることが考えられるが、その実態はほとんど解明されていない。本研究はこの点について解析を行おうとするものである。まず高血糖モデルマウスの作成を行った。マウスにストレプトゾトシンを投与し膵β細胞の障害によるI型糖尿病モデルマウスを作成した。処置マウスは、予想通り高血糖を示し、膵における炎症性サイトカイン遺伝子発現も亢進しモデルマウスとして使用できる目途が立った。また、個体の老化についても、老化促進Klothoモデルマウスによる解析を開始し、各種臓器の老化関連遺伝子発現の解析からp16発現が上昇する臓器を見出し、これを指標に様々な処置の老化への影響を検討可能となった。細胞老化の解析では、RBが細胞老化随伴分泌現象(SASP; senescence-associated secretory phenotype)に抑制的に作用することを見出した。さらに老化細胞で代謝産物S-アデノシルメチオニン(SAM)に依存してヒストンH3K9メチル化が増加することを見出し、これがRBによる細胞老化随伴分泌現象の抑制機構となる可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は初年度として肥満・高血糖および老化を解析するためのマウスモデルの作成、および代謝がエピゲノム変化を介して炎症を制御する分子機構の解析に着手することを目標とした。高血糖モデルマウスについては、ストレプトゾトシン投与によるI型糖尿病モデルマウスを作成し、サンプル数は少ないものの随時血糖と膵における炎症性サイトカイン遺伝子の発現が上昇し、炎症シグナル分子の阻害剤で抑制できる予備的結果を得た。すなわち、計画通りこの実験系を高血糖および炎症モデルとして利用できることが明らかになった。 また、個体の老化モデルでは、老化促進マウスであるKlothoマウスの各種臓器で老化関連遺伝子の発現を検討したところ、p16の発現がいくつかの臓器で亢進していることを見出し、このp16発現を指標とした老化の個体レベルの解析が可能なことが示された。 細胞老化では細胞老化随伴分泌現象が知られており、分泌される炎症性サイトカインが周辺の発がん促進環境となると報告されている。我々は、老化細胞においてp16の下流で制御されるRBが糖代謝経路の変化を生じることを明らかにしたが、それがどのようにしてエピゲノム変化や細胞老化随伴分泌現象に関わるかを検討した。まず、RBのノックダウンによって細胞老化随伴分泌現象が促進されることを明らかにし、RBが細胞老化随伴分泌現象に抑制的に働くことを示した。また、ヒストンやDNAのメチル化の基質になるS-アデノシルメチオニンが老化細胞でヒストンH3K9メチル化に関わることを明らかにし、これがRBによる細胞老化随伴分泌現象の抑制メカニズムとなる可能性を示し得た。
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今後の研究の推進方策 |
肥満・高血糖を解析するためのマウスモデルの一つとしてストレプトゾトシン投与によるI型糖尿病モデルマウスを作成したが、さらに肥満モデルによる解析を行う。これらマウスの代謝やエピゲノム変化を検討すると同時に、炎症シグナル分子の阻害剤による効果を検討する。ストレプトゾトシン投与によるI型糖尿病モデルマウスでは、既に予備的な検討を開始しているが、それが疾患の改善につながるか否かについても検討する。 我々は老化細胞を用いた試験管内の実験でRBの下流で解糖系が亢進することを見出した。また、RBは細胞老化を促進し細胞周期を止めるが、細胞老化随伴分泌現象についてはむしろ抑制的に働く結果を得た。抑制の分子機構として、S-アデノシルメチオニンによるヒストンメチル化を介した炎症性サイトカイン発現抑制を想定している。糖代謝経路と関連するセリンは、一炭素回路、メチル回路を経てメチル基を受け渡しS-アデノシルメチオニン産生に影響を及ぼす可能性がある。RBによる糖代謝経路の変化がS-アデノシルメチオニンに影響を及ぼすか否か検討する。またヒストンメチル化が炎症性サイトカイン遺伝子の制御領域で生じるか等についても今後さらに検討する。これらの一部については、既に予備実験を開始している。 興味深いことに老化促進Klothoマウスでも老化細胞と類似した解糖系の亢進が報告されている。Klothoは、老化細胞における我々の知見が個体の老化でも当てはまるか否かを検討するのに適したモデルといえる。同時に、炎症系シグナルを抑制した場合に、それが個体の老化にどのように影響するかについても検討する予定である。
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