研究課題/領域番号 |
17K08881
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
香山 尚子 大阪大学, 医学系研究科, 助教 (40548814)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 粘膜免疫 / 炎症性腸疾患 / 大腸がん |
研究実績の概要 |
本申請研究では、大腸上皮細胞に高発現する膜型ATP分解酵素ENTPD8による大腸炎症および大腸炎関連大腸がん発症・病態制御機構を解明し、炎症性腸疾患の発症原因解明および新規治療法開発の基礎基盤提供を目指す。昨年度、ENTPD8欠損マウスがデキストラン硫酸ナトリウム(DSS)誘導性大腸炎に対し高感受性を示すこと明らかにした。本年度は、ENTPD8による腸管炎症抑制に関わる詳細な分子機構の解明を行った。DSS投与後のENTPD8欠損マウスの大腸粘膜固有層では、野生型マウスに比べ、Th17細胞と好中球の数が顕著に増加することが示された。ENTPD8欠損によるDSS誘導性大腸炎の悪化は、T細胞を有しないRag2/ENTPD8二重欠損マウスにおいて改善されなかった。一方、好中球除去抗体の投与はENTPD8欠損マウスにおけるDSS誘導性大腸炎の抑制に機能した。DSS投与後のENTPD8欠損マウスの大腸上皮細胞では好中球遊走に関わる炎症性サイトカインIL-1betaとケモカインCxcl1/Cxcl2の発現が野生型マウスの細胞に比べ顕著に亢進することが示された。ENTPD8欠損マウスの大腸上皮細胞から産生されるIL-1betaが好中球依存的な大腸炎の増悪に関与するかを明らかにするためIL-1Ra/ENTPD8二重欠損マウスを作成し、DSS投与を行った。ENTPD8欠損マウスにおけるDSS誘導性大腸炎の増悪はIL-1Ra/ENTPD8二重欠損マウスにおいて抑制されなかった。これらの結果より、ENTPD8欠損に伴う腸管腔内ATP濃度の上昇は、上皮細胞におけるケモカインの発現亢進を誘導し、好中球依存的な大腸炎の悪化に関与することが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度は、腸管上皮に高発現する膜型ATP分解酵素ENTPD8が管腔内ATPを分解することにより腸管炎症および腸管炎症関連大腸がんを抑制することを明らかにした。これまで、腸管腔内ATPがTh17細胞を誘導することで腸管炎症が増悪化することが知られていた。しかし、本年度の解析により、ENTPD8欠損に伴う大腸管腔内ATP濃度の上昇が好中球の増加を誘導することで大腸炎の発症・病態に関与するという新規知見が得られた。さらに、管腔内の過剰なATPは大腸上皮細胞における好中球遊走ケモカインの発現亢進につながることを見出した。これらの成果は、ATP分解酵素ENTPD8による腸管炎症制御における詳細な分子機構の解明につながるものと考える。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの解析結果より、腸管上皮細胞に発現するENTPD8が腸管腔内において腸内細菌が産生するATPを分解し、上皮細胞におけるケモカインCxcl1/Cxcl2の発現を負に制御することにより粘膜固有層への好中球の遊走を抑制し、腸管炎症を防ぐことを見出している。今後の解析では、ENTPD8欠損マウスの大腸上皮細胞におけるATPシグナル活性化に関与するATP受容体を同定する。これまでに、野生型マウスの大腸上皮細胞においてATP受容体P2X4が高発現することを見出している。そこで、P2X4R/ENTPD8二重欠損マウスを作成し、ENTPD8欠損マウスにおけるDSS誘導性大腸炎の増悪が抑制されるかを解析する。P2XR4/ENTPD8二重欠損マウスにおいてDSS誘導性大腸炎の改善が示された際には、P2XR4を介したATPシグナル活性化が腸管上皮細胞におよぼす影響を明らかにするため、野生型・P2XR4欠損・ENTPD8欠損・P2X4R/ENTPD8二重欠損マウスの大腸上皮細胞を用いてRNA-seq解析を行い網羅的な遺伝子発現パターンの解析を行い、ENTPD8欠損に伴う大腸炎悪化の詳細な分子機構を明らかにする。
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