研究課題
抗原が生体内に侵入するとリンパ組織内では胚中心が形成され、記憶B細胞はこの胚中心B細胞から主に誘導される。記憶B細胞の産生・分化機構を解明することは、獲得免疫系による生体防御機構の理解、そして効果的なワクチン開発のために極めて重要である。しかしながら、胚中心B細胞から記憶B細胞への分化メカニズムについて、その分子機構は未解明の点が多い。申請者らは、転写因子Bach2が効率的な記憶B細胞誘導に必須であるという予備的データを元に、申請者らが新規に開発したマウスを用いた実験システムを導入して胚中心特異的なBach2遺伝子欠損マウスを作製し、1) 胚中心B細胞におけるBach2転写制御標的遺伝子群を明らかにし、2) その標的遺伝子がどのように記憶B細胞産生に関与しているか、をレトロウイルスを用いた過剰発現、ノックダウン実験および遺伝子改変マウスを用いてin vivoで明らかにし、さらに、3) 提唱された分子メカニズムの妥当性をウイルス感染モデルを用いて検証していきたいと考えている。平成29年度では、Bach2が制御する記憶B細胞産生メカニズムの分子基盤を得るため、Bach2-flox x ERT2cre x B1-8hi マウスを作製して胚中心B細胞特異的にBach2欠損を誘導し、表現型の解析およびRNA-seqによるBach2欠損胚中心B細胞のトランスクリプトーム解析を行った。結果のバイオインフォマティクス解析および、Bach2欠損胚中心B細胞のFACS解析から、Bach2は胚中心B細胞の生存、代謝制御、活性化に重要な役割を果たしていることが示唆され、これに関連するBach2標的因子候補を得ることに成功した。
2: おおむね順調に進展している
当初予定していたChIP-seq解析によるBach2結合遺伝子座の同定までは至らなかったものの、Bach2欠損胚中心の解析からBach2が胚中心B細胞の機能に多面的に関与していることが見いだされ、トランスクリプトーム解析の結果からその分子メカニズムとBach2標的遺伝子を解明する手掛かりを得ることができたことは当初の計画を上回る成果であったことから、研究はおおむね順調に進展していると評価できる。FLAG-Bach2マウス胚中心B細胞からのFLAG抗体を用いたChIP実験については、引き続き適切な実験条件の検討を行っていく。
当初の予定通り、平成30年度は、胚中心B細胞の増殖、細胞周期、代謝状態といった細胞機能パラメーターがBach2によってどのように制御されて記憶B産生につながっているか明らかにする。さらに、Bach2標的候補遺伝子が得られていることから、それらの遺伝子のコンディショナルノックアウトマウスの作製を開始し、Bach2との二重変異マウスの作製につなげていきたい。平成31年度も予定通りウイルス感染モデルを用いてBach2転写因子による記憶B産生メカニズムの検証を行う。
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すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (2件) (うち国際共著 2件、 査読あり 2件、 オープンアクセス 1件)
Proceedings of the National Academy of Sciences
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