研究課題
胸腺上皮前駆細胞から皮質、髄質系列細胞への分岐と分化を制御するメカニズムの解明を目指し、皮質上皮細胞 (cTEC)と髄質上皮細胞 (mTEC) を対象としたトランスクリプトーム、および、プロテオーム解析を行った。また、cTEC特異的に発現し、CD8T細胞の正の選択を制御する胸腺プロテアソームの構成鎖beta5tを欠損するcTECを対象とした解析も並行して行った。cTECとmTECのトランスオミクス解析により、cTECで有意に発現が高く、且つ、上皮前駆細胞を含む胎仔胸腺上皮細胞でも発現が高い転写制御因子を抽出し、欠損するマウスの作製を進めている。また、cTECで有意に発現が高く、in vitro解析において遺伝子発現を制御することが報告されている分子の欠損マウスを作製し、胸腺上皮細胞分化における役割について検討した。この欠損マウスでは、胸腺上皮細胞分化は正常であり、胸腺において顕著な異常は検出されなかった。一方、欠損オスマウスを交配に使用した場合、仔ができなかったため、精巣、および精子の詳細な解析を行ったところ、欠損マウスにおける精子の形成異常と運動能低下が検出された。この結果から、当該分子は胸腺上皮細胞の分化や機能には非冗長であること、一方、生殖機能獲得には必須であることが明らかになった。また、beta5t欠損cTECを対象としたトランスオミクス解析から、beta5t欠損により、mRNAとタンパク発現プロファイルに大きな変動はないが、cTECでのプロテアソーム構成タンパクの発現が低下することが明らかになった。一方、beta5t欠損cTECにおけるユビキチン化タンパクの蓄積やストレス応答分子の発現変動は見られなかった。このことから、cTECでのbeta5t発現は、T細胞の正の選択には重要であるが、cTECのbiologyには大きな影響を与えないことが明らかになった。
2: おおむね順調に進展している
これまで、胸腺上皮細胞を対象としたトランスクリプトーム解析は行われているが、トランスオミクス解析結果については行われていなかった。私たちが行った胸腺上皮細胞を対象としたトランスオミクス解析結果は、胸腺上皮細胞のリソースとして意義がある情報であり、現在、論文投稿中である。また、トランスオミクス結果から抽出した転写制御因子の欠損マウスの作製、および、いくつかの分子に関しては、欠損胸腺を入手して順次解析を進めることができている。さらに、cTECで有意に発現が高く、in vitro解析において遺伝子発現を制御することが報告されている分子の欠損マウスの解析からは、胸腺上皮細胞の分化、機能異常は検出されなかったが、雄性不妊を発症し、当該分子が生殖機能獲得に重要な役割を果たすことが明らかになった。これまで、当該分子の生体内機能は全く明らかにされておらず、この結果は、男性不妊の原因、および治療法開発に向けて重要な学術的証拠となると考えられる。この研究結果については、現在、投稿準備を進めている。
トランスオミクス結果から抽出した転写制御因子の欠損マウスの解析、および、いくつかの分子に関しては、欠損胸腺を入手して解析を進める。また、転写制御因子の欠損マウスの作製と並行し、beta5tの転写開始点から1kb上流のゲノム領域内の様々な領域を欠損するマウスの作製を進めている。これらのマウスの解析からbeta5tの発現制御に必要なゲノム領域を同定し、そのゲノム領域に結合する分子を明らかにする。beta5tはcTECで特異的に発現する分子であるため、beta5t発現はcTEC の指標となるため、この解析から、cTECとmTECの分岐、分化に関わる分子を明らかにする。
予想外の結果を得、当初予定していた解析法、研究アプローチを変更したため、次年度使用額が生じた。次年度使用額は、変更した研究アプローチに必要な試薬消耗品に使用する予定である。
すべて 2019 2018
すべて 雑誌論文 (4件) (うち国際共著 2件、 査読あり 4件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (4件)
Immunogenetics
巻: 71 ページ: 217-221
10.1007/s00251-018-1081-3
International Immunology
巻: 31 ページ: 119-125
10.1093/intimm/dxy081
Frontiers in Immunology
巻: 9 ページ: 2196:1-17
10.3389/fimmu.2018.02196
The Journal of Immunology
巻: 201 ページ: 516-523
10.4049/jimmunol.1800348