研究課題/領域番号 |
17K08887
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研究機関 | 愛媛大学 |
研究代表者 |
山田 武司 愛媛大学, 医学系研究科, 准教授 (40333554)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 感染免疫 / CD8+T細胞 / ヒストン脱メチル化 |
研究実績の概要 |
実用的なワクチン開発を行う上で、メモリーT細胞分化メカニズムの理解は不可欠であるが、その分化を制御するエピジェネティック調節機構については、まだ明らかとなっていない。そこで本研究では、CD8+T細胞におけるヒストン脱メチル化酵素の役割に焦点を当てた解析により、エピジェネティック変化によるメモリーCD8+T細胞分化の制御メカニズムの解明を目的とする。 近年、CD4+T細胞におけるヒストンH3K27のメチル化状態が、Th1やTh2、Tfh細胞への分化に関与することが報告されているため、我々はCD8+T細胞のメモリー細胞分化制御におけるヒストンH3K27メチル化修飾の役割に着目した解析を開始した。まずはじめに、ヒストンH3K27メチル化酵素の1つであるUtxのT細胞特異的遺伝子欠損マウスを用いたリステリア感染実験を行った結果、初期感染後の一次免疫応答には差が認められなかったが、再感染後の二次免疫応答では、野生型マウスと比較して、Utxの欠損による抗原特異的CD8+T細胞の増加を認めた。そこで、OVA特異的なT細胞レセプターを発現するOT-1トランスジェニックマウスから精製したCD8+T細胞を野生型マウスに移入し、OVA発現リステリアを感染させることで抗原刺激後のCD8+T細胞分化について解析したところ、Utxの欠損により、メモリーCD8+T細胞数の増加が観察された。これらの結果、ヒストンH3K27脱メチル化酵素が、CD8+T細胞におけるメモリー分化を制御する可能性が示唆された。一方、同じくヒストンH3K27メチル化酵素の1つであるJmjd3のT細胞特異的遺伝子欠損マウスを用いた解析では、野生型マウスと比較して、一次免疫応答および二次免疫応答ともに有意な差を認めなかったことから、今回観察されたCD8+T細胞のメモリー分化制御は、Utx特異的な機能であることが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の予定通り、UtxおよびJmjd3のT細胞特異的遺伝子欠損マウスを用いたリステリア感染実験を行い、その結果、Jmjd3の欠損マウスには差を認めず、Utx欠損マウスでのみ、抗原特異的なCD8+T細胞の二次免疫応答が亢進することを明らかにした。また、Utxの欠損CD8+T細胞において、一次免疫応答後にメモリーT細胞の増加が観察され、AnnexinVの染色解析の結果から、Utx欠損がアポトーシスの抑制にも関与していることが示唆された。遺伝子発現の比較による解析からも、Utxの欠損により、メモリー分化に関連した転写因子の発現が上昇し、アポトーシス関連遺伝子の発現が低下していることが確認された。これらの結果、今年度の遺伝子欠損マウスを用いた解析により、Utxの欠損がCD8+T細胞分化に影響を与えることが明らかとなった。Utxによる発現制御の標的遺伝子同定に関しては、現在も解析中であるが、ヒストンH3K27me3のChIP解析から、エフェクター分化に関連した遺伝子発現が、Utxによって制御されている可能性を示唆する結果をすでに得ている。 以上から、平成30年度に予定していた実験はほぼ完了しており、次年度に向け順調に研究が進んでいる。
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今後の研究の推進方策 |
平成29年度の成果を念頭に置いて、今後はUtxによるメモリー分化制御のメカニズムを明らかにして行く。具体的には、これまでに我々が見出したグルタミン代謝の過剰亢進が終末型エフェクター分化に関与していることと、グルタミン代謝産物であるαケトグルタル酸がUtx酵素のコファクターとなっていることから、グルタミン代謝経路を介したUtxの制御機構をαケトグルタル酸の競合阻害剤を用いて明らかにする。また、グルタミン代謝とUtxの関係についても明らかにするため、グルタミン代謝経路に働く酵素の阻害剤を用いた実験を行い、グルタミン代謝を抑制した場合にも、Utx欠損マウスと同様の結果がみられるかを確認する予定である。さらに、当初の実験計画には含んでいないが、細胞内エネルギー代謝を測定するためのフラックスアナライザーが利用可能となったため、抗原刺激後のCD8+T細胞のエネルギー状態の詳細な解析も新たに加える予定である。 これらの結果を踏まえて最終的には、効果的にメモリーCD8+T細胞分化を誘導するプロトコールの提唱を行う予定である。
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