研究課題/領域番号 |
17K08889
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研究機関 | 大分大学 |
研究代表者 |
小林 隆志 大分大学, 医学部, 教授 (30380520)
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研究分担者 |
花田 礼子 大分大学, 医学部, 教授 (00343707)
神山 長慶 大分大学, 医学部, 助教 (50756830)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | TRAF6 / CCL20 / SLPI / 腸炎 / Th17細胞 |
研究実績の概要 |
本研究は、腸炎の新たな分子機構の解明を目的とし、炎症性腸疾患(IBD)の病態に重要な分子の生理機能を解析する。 前年度では、抗生物質(アンピシリンとバンコマイシン)を投与したマウスの盲腸で、i) 腸管上皮のエネルギー源となるグルタミン酸や酪酸の減少、ii)短鎖脂肪酸を産生するclostridialesの減少、iii) 上皮細胞の増殖能低下、iv) 盲腸内容物の増加、v) 便潜血が認められた。本年度は、更に上皮細胞のアポトーシスが亢進していることが示された。この研究成果を英文原著論文として発表した。 一方、TRAF6によって誘導される抗菌ペプチドSLPIの腸管での機能を解明するため、SLPI欠損マウスを用いて腸炎モデルを作製した。DSS投与による腸炎では、体重減少、病態スコア、炎症性サイトカインの産生、及びリンパ球の浸潤は、野生型マウスよりもSLPI欠損マウスで著しく亢進していた。 また、TRAF6によって誘導されるケモカインCCL20の腸管での機能を解明するため、昨年度作製したCCL20ヘテロマウスを交配しホモ欠損マウスを樹立した。CCL20欠損マウスの脾臓、胸腺及び小腸パイエル板のリンパ球に大きな変化は認められなかったが、パイエル板のサイズの低下が認められた。DSS腸炎を誘導したところ、CCL20欠損マウスでは大腸粘膜構造の破壊、杯細胞の消失、粘膜下層や粘膜固有層への細胞浸潤が顕著であった。 また、腸管組織におけるSLPIやCCL20の誘導機構をマウスモデルで明らかにするため、腸管特異的TRAF6欠損マウスの作製を試みた。そこで、Villin-CreマウスとTRAF6flox/floxマウスの交配を進めたが、Villin-Cre: TRAF6flox/floxマウスは産まれにくい事が明らかになった。現在交配を進めて個体数を増やしている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
前年度は、抗生物質の投与によりマウス盲腸内の腸内細菌clostridiales、グルタミン酸及び酪酸が減少し細胞増殖が低下することが明らかになった。本年度は、上皮細胞のアポトーシス亢進を見出した。これらによって腸管内のバリア機能が低下し便潜血に至ったと考えられた。この研究成果を英文の原著論文として発表した。 抗菌ペプチドSLPIの腸管組織における機能解析では、連携研究者の竹田潔博士より分与いただいたSLPI欠損マウスをC57BL/6系統に戻し交配した後、DSSを投与して腸炎を誘導したところ、体重減少、Disease Activity Indexスコアと炎症性サイトカイン(IL-6, TNFα, IFNγ)の上昇はSLPI欠損マウスで有意に亢進した。また、腸管組織の粘膜下層への炎症細胞と形質細胞の浸潤が顕著であることも明らかになった。一方、rSLPIによるIBDの病態改善効果を検討するため、大腸菌発現ベクターにマウスSLPI遺伝子をクローニングしタンパク質の産生を試みたところ、大腸菌の増殖が抑制されrSLPIは得られなかった。 ケモカインCCL20の解析では、CCL20欠損マウスの主要臓器におけるリンパ球の解析を行ったところ、脾臓、胸腺及び小腸パイエル板のリンパ球には大きな変化は認められないものの、パイエル板の面積及び重量が有意に低下していた。CCL20欠損マウスにDSS腸炎を誘導したところ、著しい大腸粘膜構造の破壊、杯細胞の消失、粘膜下層や粘膜固有層への細胞浸潤が観察された。 腸管特異的TRAF6欠損マウスを用いて腸管組織におけるSLPI及びCCL20の誘導を解析するため、Villin-CreマウスとTRAF6flox/floxマウスの交配を進めたところ、Villin-Cre: TRAF6flox/floxマウスの産仔数は明らかに少なく、個体数を確保するため交配を継続した。
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今後の研究の推進方策 |
SLPI欠損マウス及びCCL20欠損マウスにおけるDSS腸炎は、野生型マウスに比べ、炎症性サイトカインの亢進を伴い増悪した。今後、腸管組織の恒常性に重要な制御性T細胞やTh17細胞、IgA産生B細胞の割合や局在を調べる。また、腸管内容物中の代謝産物等もGC-MSを用いて解析する。更に、メタゲノム解析により腸内細菌叢の変化を解析する。また、DSS腸炎モデルに加えトリニトロベンゼンスルホン酸(TNBS)による腸炎モデルも検討する。 腸管組織におけるSLPI及びCCL20の誘導機構を個体レベルで明らかにするため、今後、腸管特異的TRAF6欠損マウスの個体数を増やし腸管におけるSLPI及びCCL20の発現レベルをリアルタイムPCR法、ウエスタンブロット法、免疫組織化学法によって解析する。また、DSSやTNBSによる腸炎を誘導したときの、SLPI及びCCL20の発現レベルも解析する。 更に、CCL20の受容体であるCCR6の欠損マウスもCRISPR/Cas9システムを用いて作製する。CCR6欠損マウスについても同様に腸炎モデルの解析を行う。また、CCR6の発現が低下しているTRAF6欠損Th17細胞の腸管へのホーミングを調べるため、Rag2欠損マウスへのT細胞移入実験を行う。 大腸菌発現ベクターによるマウスrSLPIの発現効率を改善するため、コンピテントセルの検討を行う。また、昆虫細胞発現ベクターにSLPI遺伝子を導入した系でもタンパク質発現を検討する。rSLPIが得られたら、SLPI欠損マウスや野生型マウスにDSSやTNBSを投与して誘導した腸炎に対して、rSLPIを胃管投与することで腸炎を改善できるか検証する。
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次年度使用額が生じた理由 |
抗生物質誘導腸炎の実験が順調に進んだ為、経費の節約に繋がった。 次年度使用分は、SLPI欠損マウス及びCCL20欠損マウスの飼育管理費や、実験消耗品に使用する予定である。
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