研究課題
炎症性腸疾患(IBD)は、難治性の慢性腸炎であるがその原因は不明である。我々は、炎症のシグナル伝達分子として知られるTRAF6を介して細胞遊走を制御するケモカインCCL20とプロテアーゼ阻害分子SLPIがマウス腸上皮細胞株で誘導されることを見出した。IBD患者でCCL20とSLPIが上昇していることから、両分子のIBDにおける役割を解明するため遺伝子欠損マウスを用いた解析を行った。前年度、DSS投与による腸炎モデルを作製し、体重減少、病態スコア、炎症性サイトカインの産生、及びリンパ球の浸潤が、野生型マウスよりもSLPI欠損マウスで著しく亢進することを見出した。本年度、さらに欠損マウスの腸炎を詳細に解析し、腸管組織内に浸潤する好中球の著しい増加と線維化の亢進を観察した。また、欠損マウスでは腸管上皮細胞のアポトーシスが亢進し、腸管バリア機能が低下していることも示された。更に、腸炎を誘導したときのSLPI欠損マウスの腸内細菌叢は、悪玉菌のBacteroidesが野生型マウスよりも増加し、善玉菌のLactobacillalesが減少していた。SLPIが腸管バリア機能と腸内細菌叢を制御し、腸管組織の維持に働いていることが示唆された。一方、前年度までにゲノム編集によりCCL20欠損マウスの作製に成功し、小腸パイエル板の形成不全を見出した。本年度、CCL20欠損マウスの腸管組織における免疫細胞の局在を解析した。野生型マウスでは、CCL20の発現は腸管の中でもパイエル板で特に高く、CCL20欠損マウスの萎縮したパイエル板にはCCR6+LTi様ILC3と呼ばれる自然リンパ球が極端に減少していた。また、パイエル板の中では、常在菌であるAlcaligenesが増えていたことから、 CCR6+LTi様ILC3は CCL20によってパイエル板に遊走し常在菌を制御していることが示唆された。
すべて 2020 2019
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件) 学会発表 (15件) 産業財産権 (1件)
Biochemical and Biophysical Research Communications
巻: 525 ページ: 129~134
10.1016/j.bbrc.2020.02.066