研究課題
本研究は、今まで個別に収集・利用されている大規模疫学コホート研究データと、がん発症を把握することができるがん登録情報、診療報酬明細情報を連結し、マイクロシミュレーションを用いた統合解析から、個々人のがんリスク要因となる生活習慣とがん発症、その後の医療費負担の変化を分析し、生活習慣の改善による将来医療費の節減効果を明らかにすることを目的とした。本年度は、日本で最も罹患数の多い胃がんに焦点を当て、禁煙とピロリ菌除菌による将来医療費へのインパクトを明らかにするステップとして、マイクロシミュレーションの手法を用い、胃がん発症のプロセスに個人の喫煙状況・出生年などの背景要因を組み込んだ自然史モデルを構築した。モデルを構築するため、先行研究の系統的レビューを行い、シミュレーションモデルに必要な遷移確率などのパラメータをメタアナリシス及び公的統計資料から推計した。マイクロシミュレーションモデルから予測される胃がん死亡率は、人口動態統計から公表される全国値はおおむね一致しており、モデルの妥当性が確認された。さらに介入要因として、内視鏡検診とピロリ菌除菌を受けた場合のシナリオをそれぞれ検討し、検診によって期待できる死亡率減少効果、ピロリ菌除菌によって期待できる生命年延伸効果、最適な検診開始年齢、停止年齢などを検討した。本研究の結果は、国際学会であるASEANがん登録フォーラム2018にて発表された。
2: おおむね順調に進展している
本年度は、医療費の将来予測を行うための主要なステップである胃がんの予測モデルを、マイクロシミュレーションを用いて構築した。モデル構築にあたっては、研究協力者の協力を得て以下の通り研究を行った。1.平均余命、喫煙率、一日当たり喫煙本数、がん生存率などモデルに用いるパラメータを得るため、人口動態統計、国民健康栄養調査、国立がん研究センターが公表するがん統計などのデータソースを悉皆的にレビューした。2.先行研究の系統的レビューを行い、1.以外でシミュレーションモデルに必要な遷移確率などのパラメータをメタアナリシスにより推計した。3.シミュレーションに特化したTreeAge Proソフトウエアを用い、モデル構築から妥当性検証までを行った。4.次世代多目的コホート研究データと診療報酬明細情報の連結データを構築した。
研究計画に従い、平成30年度は以下の通り研究を進める予定である。1.次世代多目的コホート研究で収集された参加者データベースと連結した診療報酬明細情報データを、個別医療費予測回帰モデルを用い、レセプト請求単位から個票単位に再構築し、その上で個人の年間医療費を推計する。さらに、推計された年間医療費を、個人の生活習慣に従って分類するモデルを構築する。2.胃がんのシミュレーションモデルをさらに拡張し、検診と禁煙の介入による費用対効果、および将来医療費へのインパクトについて検討する。3.平成30年度は食道がんのモデル構築についても検討を行う。
統計ソフトであるSTATAの購入を2年目に変更し、また所属先移動により研究補助の傭上が必要でなくなったため。
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J Epidemiol.
巻: なし
10.2188/jea.JE20160200
Cancer Epidemiol
巻: Dec;51 ページ: 98-108
10.1016/j.canep.2017.10.013