58個の臨床における倫理的ジレンマ状況に関する質問項目を作成し、一般市民及び医師にオンライン調査を行った。一般市民は、調査会社に登録されているパネルを対象に調査を行い、457名から回答を得た。医師は、プライマリケア学会もしくは集中治療学会に所属している医師を対象に調査を行い、287名から回答を得た。これらのデータから、医師と一般市民の倫理的ジレンマに対する考え方に差異が存在していることが明らかとなった。例えば、よく臨床上で問題となる透析の中止について、①シャントが閉塞した際に再形成手術を望まない患者に対して、再形成を実施しない医師は65%、再形成しないべきと考える一般市民は49%②意識障害のある患者のシャントが閉塞した際に家族が再形成手術を望まない患者に対して、再形成を実施しない医師は81%、再形成しないべきと考える一般市民は64% ③救急に運ばれた患者が緊急の透析を実施された後2回目の透析を拒否している場合に、2回目の透析を諦める医師は84%、2回目の透析を諦めるべきと考える一般市民は57% ④救急に運ばれた患者が緊急の透析を実施された後に家族が2回目の透析を拒否している場合に、2回目の透析を諦める医師は52%、2回目の透析を諦めるべきと考える一般市民は61%であった。いずれも回答割合に有意な差が認められていた。基本的に、一般市民の方が医師よりも善行の義務を重くみており、昨今の医療をめぐる状況から医師が自己決定至上主義に陥っている可能性が示唆されるものであった。
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