研究課題/領域番号 |
17K08915
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
伊藤 達也 京都大学, 医学研究科, 講師 (00452342)
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研究分担者 |
伊勢田 哲治 京都大学, 文学研究科, 准教授 (80324367)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 研究公正 / 欧州 / 研究環境 |
研究実績の概要 |
研究代表者は、欧州の代表的な研究先進国である英国のラッセルグループに属する研究指向型の24大学のWebサイトより研究公正にかかる情報収集を行った。全ての大学で行動規範が作成されていた。その行動規範は、英国大学協会より2012年に制定された「The concordat to support research integrity」に基づいていた。また、大学での研究公正の管理責任者は、19大学にて研究担当理事であることが確認でき、大学全体の研究倫理などを司る本部組織のオフィスがこの研究公正の管理を担っていた。そのオフィスのWebページを見るとインターフェイスがとても見やすく、ガイドラインやチェックリストなどWebの完成度が高かった。教育コンテンツも外部教育コンテンツ(米国CITI)ではなく、大学独自で専門部門がコンテンツを開発している。 一方、日本の大学の研究公正にかかる環境を調査するため、研究指向型の11大学(RU11)のWebサイトより研究公正にかかる情報収集を行った。すべての大学にて研究公正にかかる行動規範は作成済みであった。行動規範は日本学術会議で制定された「科学者の行動規範」に基づいたものであった。大学で作成された行動規範を見ると研究公正と研究倫理との使い分けが明確でないことがわかった。大学全体の研究公正の管理責任者は、各大学の研究担当理事であった。全学的な専門オフィスは2大学のみ設置されており、他の大学は主として事務掛となっていた。Webページとは別に研究公正の啓発用のパンプレットが7大学で作成され、うち5大学では日本語版と英語版の両方存在していた。教育コンテンツは、ほとんどがCITIJapanであった。中には大学独自の研究者向けのポータルサイトを提供していた。 日本と英国の大学における研究公正にかかる組織や制度等の環境の比較において大きな違いはないと考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究代表者は、今年度計画した英国の24大学および日本の11大学における研究公正環境につき調査できた。日英の大学の調査に加え、平成29年度は欧州全体での研究公正の動向を把握するため、第2回欧州研究公正研究会に参加した。欧州では研究倫理にかかるルールの有無、所掌機関などそれぞれ制度があり、そして言葉・解釈・考え方も少しずつ異なっている。複数国における横断的研究からResearch integrityを進めるには5つのポイントがあることが分かった。ルールづくりなどを行う環境整備の「Governance」、ルールの実行や研究不正予防のための「Promotion」、研究者のオープンな活動の「Dissemination」、研究者のキャリアパス形成のための「Finding」、研究公正の文化構築と継続のための「Environment」である。また、日本における研究公正の動向を把握のため、研究分担者が公正研究推進連絡会議にも参加した。不正を行った科学者自身が「科学」についての認識や共通理解にかけているということが言われている。欧州での研究会の内容を比較しても、日本ではまだ研究不正に対する考えや捉え方が中心であり、また「研究公正」より「研究不正」に焦点がある。欧州のように研究者も組織も研究公正に対して取り組める環境を日本でも構築していくことが重要であり、欧州の方法などを取り入れるべく次年度以降は日本には何から始めるかを調査する必要がある。また次年度予定している英国ブリストル大学で実施されたPRINTEGERのアンケート調査のプロトコルを入手できたため、次年度の日本国内での実施に向け準備を進めることができた。 従って、おおむね順調と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
第2年度は、入手した欧州研究公正のアンケート調査の調査票を翻訳作業に進み、学内でのパイロット試験を行う予定である。 1)まず、PRINTEGERのアンケート調査のプロトコルの日本語翻訳版を作成する。その際に、基本的には英語によるプロトコルであるが、言語の違いによる試験全体内容への影響も配慮にいれて日本語版を完成させる。必要に応じて入手元である英国ブリストル大学に質問内容などを確認する。なお、PRINTEGERに参加の大学は母国語が英語ではない国々が多いため、試験の内容の認識のずれなどの有無はPRINTEGERの参加校ともコンタクトをとって確認する。 2)第1年度におこなった日本における研究公正に関する研究分野別の調査結果から見えてくる研究環境や文化の違いなどの課題に関して、日本で研究不正のアンケート調査を行い、そこから起こりやすい環境要因は何かを検討・調査を検討する。またPRINTEGERのパイロット試験の日本語版の内容が確定した時点で、学内研究組織を対象に前向き調査を実施する。またPRINTEGERにおける結果との比較を行う。そして、これらの結果をもとに学内の研究公正モデルを構築予定である。 3)欧州における研究公正の情報収集を行う。PRINTEGERの研究事業は平成30年9月で終了予定であるが、英国ブリストル大学を中心に他のPRINTEGER参加大学にもアプローチをして、各国における研究公正の環境や制度などの情報を収集し、日本におけるあるべき姿を考察する。4)日本における研究公正の情報収集を行う。一般社団法人公正研究推進協会における活動などを中心に、国内の研究公正にかかる情報を収集し、また他大学の研究者との交流により情報を収集する。
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次年度使用額が生じた理由 |
年度末における学会は書籍購入の際に残額確定まで時間を要したため、差引額を調整した結果、結果的に一部次年度使用額が生じてしまった。次年度には使用額の差額が生じないよう前もって研究を進めることに努めます。
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