研究課題/領域番号 |
17K08917
|
研究機関 | 島根大学 |
研究代表者 |
狩野 賢二 島根大学, 医学部, 講師 (20379689)
|
研究分担者 |
廣瀬 誠 松江工業高等専門学校, その他部局等, 准教授 (40367660)
岡本 覚 島根大学, 総合理工学研究科, 教授 (10204033)
|
研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
|
キーワード | モーションキャプチャー / Kinectセンサー / BLS / 胸骨圧 |
研究実績の概要 |
医療手技を客観手に評価することを目的として、Deep Learningを利用した医療手技自動評価システムの開発を行っている。平成29年度は、モーションキャプチャー“Kinectセンサー”を利用して一次救命措置BLSの胸骨圧迫を認識するプログラムを開発した。胸骨圧迫のテンポにおいて, 加速度センサー(Micro Stone社製)との計測精度を比較した結果、 平均一致率は97. 5%でありKinectセンサーの計測精度に妥当性を認めた。 胸骨圧迫の質を評価するレサシアンwith QCPR(Laerdal社製)を用いてKinectセンサーによる計測テンポを比較した。その結果、回帰式はY=1. 012X-1. 760で相関係数0. 983であり強い相関を認めた。Kinectセンサーは医療手技評価への応用が期待でき、目視による評価の補助や学習支援の一助となることが示唆された。この結果を以下の学会において発表した。 Kinectを用いたCPRの手技評価に関する研究 ―適用の限界と可能性について―:岡本覚, 岩敷弘基,狩野賢二,佐藤直,大和田芽衣子,日本実験力学会講演論文集 No.17(2017),2017年8月28日~30日,岡山理科大学,pp.45-46. Evaluation of Skills in Cardiopulmonary Resuscitation (CPR) Using Microsoft Kinect:Satoru OKAMOTO, Hiroki IWASHIKI, Kenji KARINO, Nao SATO and Meiko Owada,Proceedings of 12th ISEM'17-Kanazawa, Japan, 1-4 November 2017, pp.1-8.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成29年度の計画は、Kinectセンサーで被写体の動きを捉えるためのプログラム開発であった。初めに、Kinectセンサー設置環境の検討を行った。Microsoftの奨励条件を満たすY軸方向600mmおよび1800mmについて、Z軸方向1400mm、2000mm、2500mmそれぞれの距離を検証した。その結果、Y軸方向600mmでは、Z軸方向への距離が遠くなるにしたがい画像が小さくなった。Y軸方向1800mmから計測した結果、肘や肩が隠れ認識ができない場合を認めた。また、肘と肩の区別がつかず上腕部位を肘や肩と認識する場合を認めた。したがって、本研究ではY軸方向に600mm, Z軸方向に1400mmの地点にKinectセンサーを設置した。対象とした医療手技はBLSであり、胸骨圧迫の深さ、速さを正確に把握するためのプログラムを作成し検討した。胸骨圧迫は1分間に100から120回の速さで深さ5から6cmで胸を圧迫する手技であるため、被測定者の体の何処を計測するべきか検討を行った。その結果、手首および頭部を認識部位とした場合は、誤判定が多いことが分かった。最も良好であったのは、両肩の中点を認識部位とした場合であり、胸骨圧迫の回数を正確に把握することができた。次に、モーションキャプチャーのプログラムの精度を検証するために、対象者2名において、Kinectセンサーおよび加速度センサーでそれぞれ3回計測した。その結果、高速フーリエ解析によるピーク周波数の一致率は97. 5%であり、医療手技評価への応用の可能性が認められた。このプログラムを用いて、胸骨圧迫のテンポを計測した結果、評価シミュレーターとの比較で,相関係数0. 983であり強い相関を認めた。以上の結果から、KinectセンサーでBLSの胸骨圧迫を計測するためのプログラムは有用であると考える。
|
今後の研究の推進方策 |
平成30年度は、BLSの動作を機械学習によって認識させるプログラムを開発する予定である。BLSの動作は、①疾病者の発見⇒②周囲の安全確認⇒③意識の確認⇒④応援の要請⇒⑤呼吸・脈の確認⇒⑥胸骨圧迫⇒⑦人工呼吸⇒⑧AED操作などである。この手順の中でいくつかの注意点がある。例えば、④応援の要請は、「AED」および「緊急通報の依頼」を行う。⑤呼吸・脈の確認は5秒以上10以内に判断する。⑥胸骨圧迫の速さは毎分100~120回、強さは5~6cmとする。⑦人工呼吸は胸骨圧迫30回に対して2回行うが、胸骨圧迫の中断時間は10秒以内とする。以上のような注意点は、人間の評価者がBLSトレーニングを評価するときのポイントとなるので、医療手技自動評価システムにおいてもKinectセンサーで認識して機械学習で自動評価するポイントとなる。機械学習で心肺蘇生動作自動抽出を行う場合、データが増えるほど類似度の判定制度が高くなるDeep Learningなどが有効であるが、データ数が多くない場合にはSVMなどの線形識別器の方が有効であると考えられる。平成30年度の研究では、BLSの動作の①疾病者の発見から⑤呼吸・脈の確認までの5段階の動作について30例を教師画像として開発を開始するため、SVMなどの線形識別器を用いて動作認識プログラムを開発する。BLSの動作は、学習者の過誤によって手順を間違える場合や、あいまいな動作を行うことがる。このような場合に対応するために機械学習を用いることで、シーンの入れ替わりなども判別可能とすること、および連続性があいまいなシーンの認識精度を向上させること検討する。
|
次年度使用額が生じた理由 |
平成29年度の計画において、Kinectセンサーで被写体の動きを捉えるためのプログラム開発は計画通りに研究を行うことができた。しかし、機械学習による医療手技の特徴を抽出する研究については、研究を開始時期がやや遅くなり「教師画像」を得るためのBLS熟練者の確保が十分にできなかったことから、BLSに用いる消耗品および謝金の支出ができなかった。尚、平成30年度においてはBLS熟練者の確保が見込め、機械学習のための「教師画像」を得ることが可能になった。平成30年度および平成31年度は、医療手技自動評価システムの評価精度の向上を研究計画としているが、平成29年度の研究進捗状況の影響は十分に挽回できる程度であった。
|