本研究の目的は、生体内に刺入される鍼灸針が鍼灸師の手指で汚染されない方法および患者体液に鍼灸師が触れない技術を検討し、視覚障害を持つ鍼灸師にとっても実践可能な衛生的な鍼操作法を構築することである。研究期間全体を通し、培地を用いた細菌の付着状況および電子顕微鏡を用いた異物の付着状況の検討により、鍼灸師の手指および鍼灸針が清潔に保たれるためには、基本的な手洗いおよび擦式消毒、さらにグローブ着用が重要であることを明らかにした。また、鍼灸針を患者の体から抜く際に鍼灸師が体液に触れないためにはグローブの着用が重要であることも確認した。 本年度は、昨年度に引き続き、臨床室での行動を想定した条件下での実践可能で最適な鍼灸臨床上の手指衛生操作を、晴眼および視覚障害を有する鍼灸師を対象者として検討した。シンクでの流水と石けんを用いた手洗い操作と擦式消毒、治療ブースへの移動、患者の身体に触れる身体診察の実施といった鍼灸施術前に行われる一連の操作を行った後、鍼施術を行うことを想定し、鍼施術時の最適な鍼灸師の手指衛生操作について検討を行った。その結果、鍼灸施術を開始する直前に、再度の擦式消毒やグローブの着用を行うことが鍼灸師の手指および鍼灸針を衛生的に保つことにつながることが細菌の付着状況から確認された。 本検討で行った操作全体に関して、視覚障害者の対象者から、グローブの取り出し口がわかりづらかったという意見があった。また、ビデオによる観察では、視覚障害者でグローブ装着時にグローブ表面に触れる行動が認められた。 本検討より、素手であっても鍼施術直前に擦式消毒を行うこと、また、グローブの着用が鍼施術に用いる鍼灸針を清潔に保つ上で重要であることが明らかとなった。しかしながら、視覚に障害があっても、より使用しやすい用具や実施しやすい手順の工夫を検討する必要もあることが示唆された。
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