研究課題/領域番号 |
17K08934
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研究機関 | 東洋大学 |
研究代表者 |
榊原 圭子 東洋大学, 社会学部, 准教授 (60732873)
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研究分担者 |
山内 英子 聖路加国際大学, 聖路加国際病院, 部長 (50539088)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 乳がん患者 / 就労継続支援 / 治療と仕事の両立 / 合理的配慮 / 従業員と職場のコミュニケーション |
研究実績の概要 |
平成30年度は、平成29年度に行った文献調査、倫理申請、およびインタビュイーのリストアップをもとにインタビュー調査を行った。患者6名ならびにその上司6名へのインタビューを実施済みである。 先行研究のレビューから得られた知見として、「患者側からの情報開示や必要な配慮の要求などの積極的な働きかけの重要性」がある。インタビューを行った6名は、自分の病気の状況、治療計画、副作用、必要な配慮などについて、上司や周囲にオープンに開示していた。そのため周囲も、患者が仕事と治療を両立させるために様々な場面で協力していた。また患者は、自分の仕事と治療の両立を支えるために必要な情報を積極的に得る働きかけをしていたことが分かった。具体的には、疾病休暇、勤務形態、各種手当など、会社の制度に関して調べたり、産業医とコミュニケーションを取るなど、積極的に情報や助言を収集していた。 企業側は、患者に対して治療を優先させること、職場に必ず戻ってきてほしいことなどの心理的なサポートはもちろん、業務の調整や柔軟な働き方を認めるなどの道具的なサポートも行っていた。また患者の担当していた業務を周囲のメンバーが請け負う場合などは、そのメンバーの業務目標を調整したり、業務内容を見える化し、他のメンバーが代替できるような体制づくりも行っていた。 がんに罹患した働く女性を対象とした研究では、「言えないつらさ」「相談できない」「わかってもらえない」などの困難が多く指摘されているが、周囲への開示は支援を受ける上できわめて重要であること、それにより周囲のメンバーに、患者を支えようという態度・行動が醸成されることが示唆された。病気に罹患した従業員がいることは、職場の業務分担や業務の見える化を促すことにもつながることも明らかになった。これらは、本人とその上司の双方にインタビューをする本研究ならではの知見であると言えよう。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
インタビュー調査の予定人数は患者10~12名と、承諾が得られた場合にその上司にも行うという計画で進めてきた。これまでのところ、患者および上司のペア6組にインタビューが出来ており、治療と仕事の両立のための要因は概ね明らかになってきた。患者と上司の双方にインタビューできたこれまでの対象者は、治療と仕事の両立が上手くいっているグループであると言える。今後のインタビューでは、以前の仕事を辞めて乳がん患者の支援の業務を始めた女性や、元の職場に復帰したが仕事へのモチベーションが低下した女性、また自分の病気について開示できていない女性など、バリエーションを持たせたインタビューも行う。インタビュー対象として患者本人3名、上司1名から承諾を得ており、近々に実施予定である。
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今後の研究の推進方策 |
本年度の6月までにインタビューを終了させ、これと並行して実施済みのインタビューの分析を進める。研究結果の発表については、これまではデータ収集期間であり、成果を発表する段階に至っていなかったが、本年度はこれまでの収集したデータの結果について9月の医療コミュニ ケーション学会で発表し、その後、論文にまとめて投稿する予定である。 研究の次のステップとして、今年度の後半で量的調査を実施する予定である。インタビュー調査で明らかになった、治療と仕事の両立に必要な要件について、本人と職場の双方がどの程度行っているのかを質問紙調査で量的に明らかにする。質問紙の開発には、インタビュー調査にご協力いただいた患者さんも参加いただくparticipatory research methodを用いる。
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次年度使用額が生じた理由 |
3月にインタビュー調査を行い、謝金および録音データの文字起こし作業費が発生したが、予算執行の締め切り日以降であったため、2019年度に支払いこととして、上記金額を持ち越した。
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