本研究は働く乳がん経験者が、職場の上司や同僚とどのようにコミュニケーションを行い、就労継続のための配慮(=合理的配慮)を得たのかを明らかにすることを目的とした。研究の手法は、インタビュー調査と質問紙調査であった。インタビュー調査は12名の乳がん経験者とその上司10名に対して実施した。その結果、継続を就労している患者は周囲に積極的に情報発信をし、それに応えて上司・同僚が支援を行っていた。合理的配慮を得るにはまずは患者からの発信が重要であることが明らかになった。またそのためには、がんについての基本的な知識とそうしたことを言いやすい職場の雰囲気・風土が極めて重要であることも明らかになった。 これについては、2019年度に日本ヘルスコミュニケーション学会、2020年度に日本心理学会で報告を行い、2022年度には日本ヘルスコミュニケーション学会誌に質的研究として論文が掲載された。2021年12月には、質的研究で明らかになった内容をもとに質問紙調査を実施し、720名の乳がん経験者からの回答を得た。量的研究の分析結果については、2023年度に国際学会のシンポジウムで発表を行う。なお、海外の患者に対するヒアリング調査の対象者のリクルートを聖路加国際病院の研究協力者に依頼していたが、コロナの影響で予定していた方のインタビューに対応できなくなった。これについては、本研究期間は終了するが、2023年度に1名に実施ができる目処がついている。 がん患者の就労継続には本人と職場のコミュニケーション、そしてそれを促進する職場の風土づくりの重要性が極めて重要である。病気の治療と就労の両立は、ワークライフバランスに含まれるテーマであり、働き方改革の課題としての位置づけられている。本研究の成果は、働き方改革を進める上でも重要な知見であると言えよう。
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