研究課題/領域番号 |
17K08936
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研究機関 | 日本医科大学 |
研究代表者 |
江本 直也 日本医科大学, 医学部, 教授 (50160388)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 行動経済学 / 認知機能 / 2型糖尿病 / 危険回避度 |
研究実績の概要 |
専門医療機関での治療中の血糖コントロールに影響する行動経済学的および社会経済学的因子について調査を行なった。【方法】対象患者は東京都文京区の日本医科大学付属病院通院中の糖尿病および糖尿病以外の疾患で外来通院加療中患者。アンケートの質問項目はすでに報告した質問票を一部改変して使用した。アンケート参加の同意を得られた105名の内訳は1型糖尿病8名、2型糖尿病77名、そのほかの糖尿病1名、糖尿病以外(甲状腺疾患、下垂体疾患、脂質異常症等)19名。男性62名、女性43名、年齢60.4±13歳(平均±SD)、糖尿病患者のHbA1cは 7.2±1.21 %であった。 【結果】様々な行動経済学的質問項目を分析したところ、心筋梗塞や脳卒中になる確率が何%だと自分もかかると思うかとの質問で、2型糖尿病でHbA1c 8%以上の患者は41.9 ± 5.83 (平均±SE) 8%未満では28.2±2.84 と8%未満の患者のほうが有意に危険回避的傾向を認めた。(P<0.0401) また、非糖尿病患者では自分が心血管障害になる可能性を甘くみる患者ほど予防に払う金額が低くなるというリスク評価とその回避に払う費用に一貫した合理性があるのに対し、コンロールの良悪にかかわらず2型糖尿病ではリスク評価とその回避に払う費用に相関が認められなかった。 【結論】2型糖尿病患者ではリスク評価に対する経済行動に一貫性が認められない。さらに血糖コントロール不良の患者ではリスクに対する危険回避度が低い傾向が認められた。 【意義】2型糖尿病における脳のインスリン抵抗性が代謝異常の原因であることがいくつかのデータから証明されつつある。今回の研究は2型糖尿病では脳の認知機能に問題があることを示しており、この現象は脳のインスリン抵抗性で説明できる可能性がある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
糖尿病患者および非糖尿病患者について、その行動経済学的および社会経済学的状況(Socioeconomic status)を調査し、2型糖尿病は脳のインスリン抵抗性に原因があり、認知機能やその結果として社会経済学的状況に影響しているという仮説を検証している。アンケート調査は1,000名を予定している。これまでの研究を分析して、新しい質問票を作り、アンケート調査内容および方法について倫理委員会の審査で承認されて、印刷をして調査を開始するのが10月となった、12月までで100名のデータを集めて分析を行って上記のような結果を得て、2018年の日本糖尿病学会で発表することした。アンケート調査は順調にすすんでおり、3月まで約500名にアンケートを配り終えている。順調に進んでいると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
現在、アンケート調査は順調に進んでおり、2年目には詳細なデータの分析に入る予定である。6月には約700名のアンケート調査が終了し、患者データの入力にかなりの時間が必要となると考えている。患者データには年齢、性別、BMIなどの基本データの他、血糖コントロールの指標としてのHbA1cはアンケート時その3か月前後の動きも入力、されに合併症の状態、学歴、配偶者の有無、加入する健康保険から社会階層を推測する。これらのデータと行動経済学的性向とを包括的に分析する必要がある。生物学的分析とは異なる社会科学的分析手法も必要である。生物学的分析では多因子の分析には重回帰分析などの探索的分析を用いるが、社会科学的研究ではモデル仮説を検証するとう手法を用いることが多い。しかし、今回の研究では非常に多くの因子があるため、とりあえず探索的統計分析を行って、有意差の認めらるものからモデルを構築する方向で研究を進める予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
患者アンケートの謝礼として500円の図書カードを配布することになっている。すでに700枚購入して配布しているが、まだすべて配布を終わっていない。研究費からの支出にあたり、配布患者全員の署名入りの受け取り証が必要であり、すべて配り終えてから、全員の受け取り証をまとめて確認の上、研究費から清算することとなっている。 アンケート結果の分析結果を基に質問票を改変し、さらに調査をすすめる予定である。
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