研究課題
2017年10月から日本医科大学付属病院糖尿病内分泌代謝内科で専門外来を受診中の患者に対し行動経済学的質問票による調査への参加依頼を開始した。2018年10月までに質問票を配布し、参加に同意し質問票に回答したのは387名、男性236名、女性151名、年齢62.1±12.5歳(平均±SD)であり、疾患の内訳は糖尿病患者305名(1型糖尿病27名、2型糖尿病273名、そのほかの糖尿病4名)、糖尿病以外(甲状腺疾患、下垂体疾患、脂質異常症等)82名であった。質問票の質問例 危険回避度;1日以内に1%の確率で10万円の損害が起こるとします。ただし、保険料を払っておけばその損害額を保険会社が払ってくれます。次のように各保険料でその保険をかけることができるなら、あなたは保険をかけますか。【結果】危険回避度に関する質問の回答から、白紙の回答、一部分のみしか○をつけていない回答、標準的経済学の考え方に矛盾する回答を不適切・非合理的回答(非合理)とし、その他を適切・合理的(合理)とした。非合理の比率は年齢とともに上昇したが、糖尿病患者で特に顕著で、65歳以上では非合理は糖尿病以外では19 %であったが、糖尿病患者では44 %と非常に高かった(p=0.0050)。糖尿病患者では合理、非合理でHbA1cに有意差はなかったが、非合理のほうが網膜症を有している率が高く(p=0.0091)、腎症を持つ確率が有意に高かった(p=0.0281)。【結論】糖尿病患者では質問票に対し不適切・非合理的な回答をする患者が多く、またそのような患者では網膜症と腎症を有する頻度が有意に高かった。糖尿病患者は、他の疾患の患者と比べてリテラシー能力の低い患者の比率が高く、糖尿病の発症と進展に深く関係している可能性が示唆された。これらの結果は糖尿病学会および行動経済学会で報告している。
2: おおむね順調に進展している
本研究は患者調査である。アンケート調査により患者の行動経済学的性向とsocioeconomic statusを調査し、患者データと併せて解析を行い、糖尿病の発症や合併症の進展に患者の行動経済学的性向とsocioeconomic statusが強く影響していることを証明することを研究の目的としている。東京文京区の日本医科大学付属病院において500名を目標としてアンケート調査の依頼を2017年10月より開始し、2018年10月までに500名の配布を終了し、解析を行って実績の概要に示したような結果を得ている。さらに千葉県印西市の日本医科大学千葉北総病院においても同様の質問票調査を行っており、地域や疾患による違いを分析中である。
患者の行動経済学的性向やsocioeconomic statusには地域的な違いが存在する可能性がある。これまで、東京都心の文京区の病院と、首都圏ながら地方と言える千葉県印西市の病院で調査を行ってきた。それだけでは不十分と考えられ、平成31年度からは千葉県浦安市の順天堂大学浦安病院の小谷野准教授に研究分担者に加わっていただき、千葉県浦安市での調査も行う。浦安市は千葉県でも東京都心により近く、印西市と東京都心の中間的な位置に属すると考えられる。これにより地域的な特性を明らかにすることができると考えられる。またさらに、糖尿病以外の疾患、特に甲状腺中毒症など精神状態に影響すると思われる疾患についても調査を行い、糖尿病との違いを明らかにすることで、糖尿病に特異的な行動経済学的性向を明らかにできると考えられる。
2018年度までで実施できるはずだったアンケートが一部未達成のため図書カード代が残った(30万円)。今後、研究分担施設を増やして、さらにアンケートを実施する予定。また、論文のpublish fee(約30万円)がまだ論文が未完成であったため残金となってしまった。次の年度でいくつかの論文をpublishする予定である。
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