研究課題
本研究は、心血管疾患の一次予防としての脂質低下療法について、費用対効果の観点から評価することを目的としている。HMG-CoA還元酵素阻害剤(スタチン)をはじめとした薬物による脂質低下療法は心血管疾患の発症、再発のリスクを減少させることが国内外の多くの臨床試験で明らかとなっている。しかしながら、心血管疾患の発症率が欧米と比べて少ない日本人において、一次予防を目的とした脂質低下療法をどのような患者に対し実施するかという問題がある。そこで、日本人の心血管疾患発症リスクに基づいたシミュレーション・モデルを構築し、脂質低下療法の費用対効果分析を実施することとした。最終年度である今年度は、動脈硬化性疾患予防ガイドライン2017年度版に採用されている吹田スコアに基づいた心血管疾患発症リスクにおける脂質低下療法の費用対効果分析を行った。吹田スコアは、年齢、性別、喫煙、血圧、HDL-C、LDL-C、耐糖能異常、早発性冠動脈疾患家族歴の情報を用いて10年以内の冠動脈疾患の発症確率を推定するものである。これまでに収集したモデルに使用するパラメタ、作成したシミュレーション・モデルを用いて脂質低下療法についての費用対効果を検討した結果、心血管疾患の発症リスクが高ければ高いほど費用対効果が優れていることが示唆された。脂質低下療法は、長期的な治療が必要であり、心血管疾患の一次予防として脂質異常症治療薬をどのような患者に処方するかは臨床的な視点だけでなく、社会経済的観点からの評価も必要である。今後は、高齢者における脂質低下療法の継続の意義も含め、心血管疾患の発症予防だけでなく、フレイルおよび要介護状態などをアウトカムとしたより発展的なモデルにおいての臨床効果や社会経済的観点からの検討が望まれる。
すべて 2021
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Journal of Atherosclerosis and Thrombosis
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