本研究では抗動脈硬化作用が注目されるパラオキソナーゼ(PON)3に関する日本人の基盤データの構築を目的として、血清中PON3濃度の解析と個人間変動要因の分析、シンバスタチンの体内動態との関連、また日本人のPON3遺伝子多型と頻度について検討した。 日本人健常成人50名の血清において、シンバスタチン添加によりカルシウム依存的な加水分解が観察され、シンバスタチン酸の生成速度の個人間変動は2.5~3.5倍の範囲であった。ELISA法を用いた血清中PON3濃度の平均値は9.6±3.8 μg/mLであり5倍程度の個人間変動が認められたが、既報のコーカシアン人種における血清中PON3濃度1.78 μg/mLに比較し日本人で高濃度である可能性が示された。血清中PON3濃度は体重およびBMIと負の相関が認められた。血清PON3濃度はシンバスタチンとシンバスタチン酸のAUC比と有意な正の相関が認められ、血清PON3濃度が高いとシンバスタチン酸への代謝活性が高くなることが示唆された。 日本人におけるPON3のSNPはデータベースTogoVar に基づく解析では1247報告されており、頻度が >0.001以上のSNPはrs139856535、rs17883013、rs141350740、rs146627952の4つで、頻度はそれぞれ、0.003、0.005、0.017-0.044、0.002であった。rs141350740については、日本人以外の人種ではほとんど報告がなかった。 本研究から日本人の血清PON3濃度がコーカシアン系人種に比較し高く、血清PON3濃度が高いほどシンバスタチンからシンバスタチン酸への代謝比が高いことが示唆された。肥満との関連とともに、シンバスタチンの薬物動態の人種差要因としてPON3が関与することを初めて示したものである。
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