研究課題/領域番号 |
17K08954
|
研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
廣田 豪 九州大学, 薬学研究院, 准教授 (80423573)
|
研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
|
キーワード | P糖タンパク質 / インスリン / microRNA |
研究実績の概要 |
前年度までに、インスリンがP-gp発現量を減少させる機構として、ABCB1 mRNAの3'非翻訳領域に対するAgo2結合の増加が関与していることを明らかとした。当年度においては、関連するmiRNAの特定と詳細なメカニズムの同定を試みた。 これまでの検討により、P-gp発現減少に重要であることが示された領域であるABCB1-3’UTRの5’末端から256~382 bpに結合するmiRNAをTargetScanにて解析した。その結果、当該領域に特定のmiRNAが結合する可能性が示された。インスリンがmiRNA発現量に与える影響を評価した結果、発現量に対してインスリン曝露による影響は認められなかった。一般的に、Ago結合miRNA量は細胞内発現量と相関するが、一部のmiRNAでは相関が低いことが報告されている。そのため、miRNAの機能を評価するためには、細胞内発現量ではなく、Agoに結合するmiRNA量を測定することが重要であると考えられる。そこで、インスリン曝露前後のAgo2結合miRNA量を定量した。その結果、miRNAのAgo2結合量がインスリン曝露により約60%増加した。このことから、インスリンはmiRNAの細胞内発現量ではなく、Ago2結合量を増加させることで、P-gp発現制御を行う可能性が示唆された。 次に、miRNAがP-gpおよびABCB1 mRNA発現量に与える影響を評価するため、HepG2細胞にmiRNA を導入し、P-gpのタンパク質とmRNAの発現量を測定した。その結果、miRNA処置によりタンパク質発現量が有意に減少した。一方で、mRNAに関しては、miRNAによる影響は認められなかった。以上より、インスリンによりmiRNAのAgo2結合量が増加した結果、ABCB1 mRNAの翻訳抑制を介してP-gp発現が抑制されることが示唆された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
前年度には特定できなかった機能性miRNAを明らかにすることができた。また、特定したmiRNAがP-gpの発現制御を行うメカニズムについて、その実態がmiRNA発現量の増加によるものではなくAgo2結合miRNA量の増加に基づくものであることを明らかにすることができた。当初の想定とは異なり、一般的な機構であるmiRNAの発現量の変動による発現制御機構の変化ではなく、複合体形成の変化に基づくものであったためメカニズムの同定は困難であったが、滞りなく機構解明を行うことができたと考えている。
|
今後の研究の推進方策 |
インスリンによるP-gp発現制御の減少が、miRNAのAgo2結合量の変化に基づくものであることを明らかにできたことから、本研究における機構解明の大部分は終えることができた。今後は、この機構に基づくP-gp発現変動が、トランスポーターの機能本体である薬物輸送能力にどの程度影響を及ぼすものであるのかを明らかにする必要がある。そのため、次年度ではP-gpの基質薬物であるドキソルビシンを用いてその薬効や細胞内蓄積量に対するmiRNA/P-gp機構の寄与を明らかにする予定である。
|
次年度使用額が生じた理由 |
平成30年度に予定されていた研究のうち、特定したmiRNAが与える影響について解析対象遺伝子を追加した検討を行っており、当該実験が年度をまたいだため、若干の次年度使用額が生じた。この分については、次年度の早い段階で使用する予定である。
|