研究課題/領域番号 |
17K08957
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研究機関 | 岐阜薬科大学 |
研究代表者 |
原 宏和 岐阜薬科大学, 薬学部, 准教授 (30305495)
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研究分担者 |
足立 哲夫 岐阜薬科大学, 薬学部, 教授 (40137063)
神谷 哲朗 岐阜薬科大学, 薬学部, 講師 (60453057)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 硫化水素 / 亜鉛 / 銅 / 細胞死 / 細胞保護作用 |
研究実績の概要 |
硫化水素(H2S)は、近年、一酸化窒素や一酸化炭素に続く第三のガス状シグナル分子として注目されている。H2Sは多彩な薬理作用を有しており、その一つとして、脳梗塞や神経変性疾患における神経細胞傷害に対する保護作用が報告されている。一方、必須微量元素である亜鉛(Zn)や銅(Cu)などの金属イオンの脳内恒常性の破綻が、これら疾患の発症や病態の進展に関与することから、脳内金属イオンの恒常性の是正を指向した治療法の開発が期待されている。H2SはZnやCuイオンと高い反応性を示すことから、H2Sが脳内金属イオンのインバランスの改善を促すことで保護作用を発揮している可能性が考えられるが、詳細は不明である。 本年度は、Znによる神経細胞傷害に対するH2Sの効果についてヒト神経芽細胞種SH-SY5Y細胞を用いて検討した。Zn誘導性細胞死はH2S供与体NaHS存在下で抑制された。NaHS添加の最適な時間を検討した結果、Zn曝露と同時にNaHSを添加したとき、最も強いNaHSの細胞保護効果が認められた。Zn誘導性細胞死ではミトコンドリアの機能障害や細胞内エネルギー産生障害が関与している。そこで、Zn曝露後のミトコンドリアにおけるROS産生、細胞内NAD+およびATP量に及ぼす影響を検討したところ、NaHSはZn曝露により引き起こされるミトコンドリアROS産生亢進やNAD+およびATP量の減少を抑制した。また、Zn曝露により細胞内で増加したZnは金属応答配列の活性化およびメタロチオネイン(MT)遺伝子の発現を亢進したが、NaHSはこれらの応答も抑制した。以上の結果から、NaHSはZnの細胞内流入を抑制することにより、Zn誘導性細胞死に対する保護作用を発揮しているのではないかと考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、ZnによるSH-SY5Y細胞傷害に対するH2Sの保護作用について検討し、H2S供与体NaHSがZn誘導性SH-SY5Y細胞傷害に対して保護作用を示すこと、この保護作用はH2S(あるいはHS-)がZnと反応し、細胞内へのZnの取り込みを抑制することにより発揮されることを明らかにした。脳梗塞時に認められる神経細胞傷害には、神経終末から過剰に放出される遊離Znの関与が指摘されている。それゆえ、本研究成果は、脳梗塞による神経細胞傷害に対してH2S投与が有効な治療法となる可能性を示す有益な知見になると考える。本研究成果は、Free Radical Researchに掲載された。 以上の研究推進状況から、申請者は実験計画がおおむね予定通り進行していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
来年度は、以下の2点を中心に研究を実施する。 1.活性イオウ分子によるMTの発現制御 本年度の研究から、H2SがZn誘導性細胞傷害に対する保護作用を有していることを示した。次年度は、ポリスルフィドなどの活性イオウ分子が細胞内金属イオン動態に及ぼす影響を検討する。申請者は、ポリスルフィド化試薬Na2S3がMT発現を亢進することを予備実験において確認している。しかし、その機序については不明であることから、分子レベルでその機序の解明を目指す。また、MTの発現が細胞内のZn動態に及ぼす影響についても検討する。 2.Cu誘導性細胞死に対するH2Sの影響 脳内のCu恒常性の破綻も、アルツハイマー病やパーキンソン病などの神経変性疾患の発症・病態の進展に影響を及ぼすことが報告されている。しかし、H2SがCu誘導性の神経細胞傷害にどのような影響を及ぼすかについては不明な点も多い。申請者は、Znの場合と異なり、Cuによる細胞傷害はNaHSにより増強することを予備実験で確認している。そこで、次年度は、その分子機構の解明に取り組む。
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次年度使用額が生じた理由 |
理由:本年度は、申請者が所属している研究室全体として、当初予定していたより多くの研究費を獲得することができた。本研究室では、酸化ストレスに関する研究を展開していることから、使用する試薬などは研究室共通で使うものも多い。本年度は、物品(試薬など)を共同購入することで、予算を当初より削減することができたため、一部予算を次年度に繰り越した。 使用計画:課題研究はおおむね順調に進んでいることから、次年度の研究計画は予定通り進める。
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