研究実績の概要 |
低酸素誘導性の転写因子、低酸素誘導因子HIFは血管内皮増殖因子 (VEGF) 誘導により血管新生を促進する。本研究はHIFの活性化を増強すると血管新生を促進し腎線維化に抑制的に働くとの仮説を立て、腎線維化のモデルである一側尿管閉塞 (UUO) マウスを用いて腎線維化におけるHIFの役割を検討した。閉塞腎でのVEGFの遺伝子発現は術後3、7、14日の何れの時点においても低下し、HIF-1遺伝子欠損の影響は認めなかった。一方、HIF欠損により術後3日目においてはUUO腎に見られた線維化促進因子のPAI-1, CTGFの遺伝子発現の亢進が減弱したが、その後、減弱効果は消失しHIF欠損は腎線維化は影響を受けなかった。これらは既知のHIF依存性遺伝子であり、閉塞腎では早期にHIF-1が活性化し、PAI-1, CTGF遺伝子発現を促進することが明らかとなったが、VEGFの発現は促進されなかった。次にHIF分解抑制薬であるFG4592投与でUUO腎に見られたPAI-1およびCTGF遺伝子発現亢進は術後3日目で増強したが、7日目にはこれらの増強作用は消失した。またFGは腎線維化に影響しなかった。これらの効果はHIF-1遺伝子欠損マウスにおける結果と鏡像的であった。一方、対側腎におけるVEGFの遺伝子発現は術後3日、7日共にFGにより増強したが、UUO腎に見られたVEGF発現低下には影響を与えなかった。従ってUUOにおける腎線維化の初期には一過性にHIF活性化が生じ、線維化促進因子のCTGF, PAI-1の発現が亢進すること、これらの効果はHIF分解抑制薬で増強することが明らかとなった。しかしながらこのモデルではHIF依存性のVEGF発現促進作用は認めず、VEGFによる腎線維化の抑制効果は認めず、むしろHIF依存性のCTGF, PAI-1発現亢進により線維化促進性に働く可能性が示唆された。
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