研究課題/領域番号 |
17K08960
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研究機関 | 埼玉医科大学 |
研究代表者 |
村上 元 埼玉医科大学, 医学部, 講師 (70613727)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 主要組織適合遺伝子複合体クラスI |
研究実績の概要 |
2015-2016年度の若手研究Bにおいて、新生児の脳室へのウイルス注入による胎児のドーパミン神経細胞への直接感染の可能性を調べた結果、直接感染は観測できなかった。そこで本研究では、ウイルスがドーパミン神経細胞に間接的に影響を与える可能性を検討した。すなわち、ウイルスが直接目的細胞に到達し作用しなくても、免疫細胞を活性化することで間接的にドーパミン神経細胞のMHCI発現を変化させる可能性を考えた。これらの可能性を検討するために発達期のウイルス感染モデルとして良く用いられている母胎免疫活性化モデルを用いた。すなわち、炎症誘発剤であるpolyinosinic-polycytidylic acid(poly(I:C))を胎児期(9GD)に投与し、胎児が生まれ成獣(9W-12W)になった後に中脳の腹側被蓋野を切り出しMHCIの発現量が減少するかを調べる。そこで、まず母胎免疫活性化法により生まれた胎児が従来の報告と同様の行動異常を示すかを調べるためにPrepulse Inhibition (PPI)試験を行った。当試験では先行する小さな刺激による直後の強大な刺激からの不随意的な保護システムを評価する。発達期のウイルス感染モデルマウスは統合失調症モデルとしてよく用いられており、統合失調症の患者では上記の抑制システムが働かないことが知られ、動物に対しても統合失調症の指標として良く用いられる。我々の実験でもPPIが母胎免疫活性化法により生まれた胎児で阻害されていることが確認できた。また自発的行動量を1週間計測した結果、行動量が母胎免疫活性化法により生まれた胎児で上昇していることが確認できた。ただし本結果は実験個体数が少なく、今後繰り返し行うことで統計的に優位な結果であることを証明する必要がある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
ドーパミン神経細胞への間接的影響を調べるために母体免疫活性化法を用い、母胎免疫活性化法により生まれた胎児が従来の報告と同様にPPIの阻害や自発的行動量の増加が起きていることを確認しつつある。また同時に2016年4月の研究代表者の移動に伴い、研究機器を新しくセットアップし、本研究遂行のために必要な実験系である定量的PCR法や免疫組織学的染色法を立ち上げた。現在は世界的によく用いられている3チャンバーを用いた社会的相互作用試験を立ち上げている。
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今後の研究の推進方策 |
今後はより実験を繰り返し行うことで、母胎免疫活性化法により生まれた胎児でPPIの阻害や自発的行動量の増加が統計的に優位な結果であることを証明する。また母体免疫活性化モデルの確立をより確かに確認するために、社会的相互作用試験も行う予定である。社会的相互作用試験では世界的によく用いられている3チャンバーテストをおこない社会的相互作用だけではなく社会的認知機能も調べる。統計的に優位な結果が確認でき次第、上記の行動実験に用いたマウスの凍結保存してある脳を用い、ドーパミン神経細胞が存在する腹側被蓋野におけるMHCIを含む遺伝子発現の変化を網羅的に解析する。具体的にはpoly(I:C)を用いて作成したウイルス感染モデルマウスと、ウイルスが含まれていない溶液を同様に投与した対照マウスからドーパミン神経細胞が存在する腹側被蓋野をそれぞれ切り出す。それ等の試料からmRNAを抽出し、定量的PCR法によりMHCI遺伝子をはじめとした様々な免疫関連遺伝子とドーパミン関連遺伝子の発現を比較する。またマイクロアレイ解析によって、腹側被蓋野以外にも発達障害に関連する脳部位に対して網羅的に遺伝子発現の比較解析も行う予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
2016年4月に埼玉医科大学に講師として赴任し、新しく実験をセットアップする必要があるが、それ等に遅れが生じているため。使用計画としては昨年度の遅れと本年度の計画を遂行することで計画通りに予算を使用することが出来る。
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