研究課題/領域番号 |
17K08962
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研究機関 | 帝京大学 |
研究代表者 |
渡部 正彦 帝京大学, 医療共通教育研究センター, 准教授 (90301788)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | タンパク質相互作用 |
研究実績の概要 |
うつ病の主な一病因として考えられるシナプス伝達障害を考慮すると、神経伝達物質貯蔵小胞の細胞内輸送に於いて重要な働きを担うRabタンパク質の制御機構は、既存の抗うつ薬とは異なる新たな薬物標的として大いに期待できる。これまでの自身の研究とこれまでの報告内容を整理して互いの関連性を調べてみると、五つのタンパク質CK2、Hsp90、HDAC6、Rab、GTRAP3-18とうつ病との関連性を明確にすることは、新規抗うつ薬の開発のための理論的基盤構築を可能にし得ることから、五つのタンパク質の活性調節経路の重要性を明らかにすることを目的として本研究を行った。 これらタンパク質の機能を詳細に調べるために、それぞれの発現ベクターの構築を試みた。五つのタンパク質のうち、一番初めに発現ベクターの構築に成功したGTRAP3-18の発現ベクターを細胞内に導入し強制発現させたところ、驚くべきことに細胞死を誘導したのである。 そこで、GTRAP3-18と結合報告のあるRabタンパク質に着目し、GTRAP3-18のこの毒性に対する影響を調べた。Rabタンパク質には多くのファミリータンパク質の存在が知られているが、その中でRab1aをGTRAP3-18と共に細胞内に強制発現させたところ、Rab1aとGTRAP3-18とが共発現している生細胞の観察に成功したのである。つまり、GTRAP3-18の毒性をRab1aが抑えたというこの結果は、Rab1aがGTRAP3-18を制御しているというとても重要な事実であることから、論文としてまとめ報告した (Biochem Biophys Rep 2018;14:16-9)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
五つのタンパク質の機能・役割・効果等を調べるため、それぞれのタンパク質をヒト由来の培養細胞に過剰発現させることを試みた。五つのタンパク質のうち、一番初めに発現ベクターの構築に成功したGTRAP3-18の発現ベクターをまず細胞に導入し細胞内にGTRAP3-18を強制発現させたところ、細胞死を引き起こしたのである。コントロールベクターでは無影響であったこと、使用した細胞にはもともとGTRAP3-18が発現していることから、GTRAP3-18の発現量は調節されており、ある一定量以上発現してしまうと細胞に対し毒性を示してしまうことがわかった。 より詳細なGTRAP3-18の機能を調べるために組換えタンパク質を得ようと酵母での発現系の構築をおこなったところ、酵母にGTRAP3-18を発現させるとその酵母の増殖さえも抑制してしまうことがわかった。 そこでGTRAP3-18への結合報告があるRabタンパク質に着目し、GTRAP3-18の毒性に対して、どのように影響するかを調べた。多くのRabファミリータンパク質の中でも、代表的なRab1a、Rab3a、Rab8aの3種をまずは検討することとし、それぞれの発現ベクターを作製して、GTRAP3-18発現ベクターと共に酵母に導入して共発現させたところ、Rab1aとGTRAP3-18の組み合わせのときのみ酵母での増殖が観察され、他の組み合わせでは増殖が抑制されたままだった。この結果、GTRAP3-18の毒性はRab1aにより回復できることがわかった。この現象をヒトでも確かめたところ、Rab1aとGTRAP3-18が共発現している生きたヒト由来細胞の観察に成功した。以上の結果から、Rab1aがGTRAP3-18を制御していることがわかったので、現在、残りの三つのタンパク質CK2、Hsp90、HDAC6の発現ベクターの作製に取り掛かっている。
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今後の研究の推進方策 |
初年度において、当初の研究計画通りとはいかなかったものの、新たな現象を見出し、研究を進め、査読ある研究雑誌に報告できたので、次年度である今年度は当初の計画に沿って、五つのタンパク質のうち、残りの三つのタンパク質CK2、Hsp90、HDAC6に着目し、初年度と同様にヒト由来培養細胞HEK293およびSH-SY5Yを用いて強制発現系を構築させ、それぞれのタンパク質の機能を調べる。まずはGTRAP3-18とRabしか発現ベクターの作製に成功していないので、残りのCK2、Hsp90、HDAC6三つのタンパク質の発現ベクターの構築を行っていく。作製でき次第、ヒト由来培養細胞HEK293およびSH-SY5Yに導入・強制発現させ、細胞に及ぼす影響を調べる。Rab1aとGTRAP3-18の関係のように残りのCK2、Hsp90、HDAC6三つのタンパク質に関して、その役割・機能を明確にしていく。 また、初年度ではRab1aとGTRAP3-18の関係性は明確にすることができたが、互いに直接結合しているか否かは未だわからないので、CK2、Hsp90、HDAC6三つのタンパク質に関する情報が得られた後に、五つのタンパク質各々の抗体を用いた免疫沈降等を行い、沈降物中に含まれるタンパク質を各抗体で検出していくことで、五因子がどのような組み合わせで複合体を形成しているのか、詳細を明らかにしていく。 以上のごとく、最終年度にはin vivoでの評価が行えるよう、五つのタンパク質の関連・重要性を、培養細胞を用いて明確にしていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
初年度において、当初の研究計画では五つのタンパク質CK2、Hsp90、HDAC6、Rab、GTRAP3-18すべての発現ベクターを作製して検討を行う予定であったが、GTRAP3-18の発現ベクター作製成功後すぐに強制発現実験をおこなったところ、非常に興味深い現象がみとめられたことから、その現象の解明に方向性を定め優先的に検討をおこなったので、Rabの発現ベクターまでは作製し終えたが、未だ残りの三つのタンパク質CK2、Hsp90、HDAC6の発現ベクターができていない。また、当初の研究計画では上記の五つのタンパク質の関係性を調べるために、五つのタンパク質すべての抗体を購入して免疫沈降等を行い、沈降物中に含まれるタンパク質を各抗体で検出することで、五因子がどのような組み合わせで複合体を形成しているのかを調べる予定であったが、初年度は上記のようにGTRAP3-18とRabとの興味深い現象解明を優先的におこなったため、未だに五つのタンパク質すべての抗体を購入しておらず、こちらの研究もこれからの予定となっている。 したがって、当該助成金は初年度としての当初の計画ではおこなえなかった発現ベクター作製費や抗体購入費等に使用し、翌年分として請求した助成金は次年度に計画していた内容に使用していく予定である。
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