研究課題/領域番号 |
17K08965
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
小菅 康弘 日本大学, 薬学部, 准教授 (70383726)
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研究分担者 |
三枝 禎 日本大学, 松戸歯学部, 教授 (50277456)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 腎機能 / 小胞体ストレス抑制 / 海馬 / S-allyl-L-cysteine |
研究実績の概要 |
本年度の研究では、CKDモデルとして5/6腎摘慢性腎臓病マウス(PNxマウス)を用いて、学習・記憶に重要な役割を果たす海馬におけるストレス関連因子の発現増加に、治療候補薬が及ぼす影響を検討した。なかでも、成熟ニンニクエキス由来成分で海馬において小胞体ストレス抑制作用を持つことを我々の研究グループが報告してるS-allyl-L-cysteine (SAC)の及ぼす影響を詳細に検討した。 実験にはC57BL/6J雄性マウスを用い、8週齢時に左腎臓の2/3を摘出し、9週齢時に右腎臓を全摘出した。偽処置マウスには、皮膚及び筋肉の切開のみを行った。また、腎機能は、血清尿素窒素 (BUN)値や血清Creatinine (Cre)値から判定した。 海馬依存的な記憶障害が生じることが報告されている腎摘8週間後のPNxマウスの海馬において、酸化ストレスマーカーである4-hydroxynonenal付加タンパク質の増加に加えて、小胞体ストレスのマーカーであるglucose-regulated protein 78 (GRP78)の発現レベルがBUN値やCre値に依存して増加した。SACは1g/Lとなるように精製水に溶解したものを、右腎摘出8日後から8週間給水ビンにて自由飲水させた。なお、飲水量から求めたSACの推定投与量は、約360mg/kg/dayであった。対照群には精製水を飲水させた。SACは、血清CRE値や血清Ca値の増加には影響を及ぼさなかったものの、血清BUN値やGRP78の発現増加を抑制する傾向が認められた。さらに、SACは糸球体面積の増加を有意に抑制した。 以上より、SACは海馬におけるCKD誘発性の小胞体ストレスの誘導を抑制する新規治療薬となる可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の研究により、成熟ニンニクエキス由来成分のひとつであるSACは、CKDモデルマウスの海馬における小胞体ストレスの増加を抑制する作用を示すことが明らかとなった。また、SACを投与したCKDモデルマウスでは、糸球体面積の増加や腎機能の低下を示す血清パラメータの値が改善されており、CKDに伴う腎機能低下を抑制する作用を持つことが明らかとなった。SACのこれらの治療効果は、先行研究で脳保護効果があることが報告されているTEMPOLと比較して、顕著なものであった。一方で、脳内の酸化ストレスの増加に及ぼす影響については、解析を十分に行えなかったため、おおむね順調に進展しているとした。 また、Acetylcholineを神経伝達物質とするモデル細胞を用いて、神経活動に伴うAcetylcholineの基礎放出量を定量化する手法を開発した。
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今後の研究の推進方策 |
本年度の研究結果から、SACのCKDモデルマウスの腎機能の低下を改善する作用があることが示唆された。そこで、SACがCKDに伴う腎糸球体の線維化、マクロファージの浸潤、アポトーシスの誘発などを中心に腎臓に及ぼす影響についても検証し、腎機能改善という観点からも脳内ストレス応答の変化を検証する予定である。 また、本年度改良したAcetylcholine回収・分析システムを用いて、CKDマウス海馬における細胞外アセチルコリン放出量の変化の定量化を試みる予定である。 最後に、選出されたSACのCKDマウスにおける有効性について、新奇物質探索試験、モーリス水迷路試験、受動回避試験等の行動学的解析から、記憶・学習障害に及ぼす影響について検証する。
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次年度使用額が生じた理由 |
ほぼ計画通りに研究は進んだが、SAC以外の化合物では顕著な影響が認められなかったため、その後に行う予定だった解析を取りやめた。 次年度は、腎機能の改善効果を詳細に検討する予定である。
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