研究課題/領域番号 |
17K08966
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研究機関 | 日本歯科大学 |
研究代表者 |
大越 章吾 日本歯科大学, 新潟生命歯学部, 教授 (70231199)
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研究分担者 |
石川 博 日本歯科大学, 生命歯学部, 客員教授 (30089784)
松田 康伸 新潟大学, 医歯学系, 准教授 (40334669)
廣野 玄 日本歯科大学, 新潟生命歯学部, 准教授 (80386268)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 間葉系幹細胞 / 歯髄バンク / 肝細胞 / 再生医療 / 重症肝障害 / 動物モデル / 薬剤スクリーニング / テーラーメイド医療 |
研究実績の概要 |
歯髄の中に間葉系幹細胞(MSC)が存在することは最初に2000年に報告され(Proc Natl Acad Sci 97,13625‘,2000)、その後骨、脂肪、神経を初め様々な細胞に分化することが報告されている。中でも小児時の脱落歯由来の歯髄由来幹細胞は極めて増殖能が高い。加えて、それらは全く侵襲なく得ることができるため、臍帯血のようにバンク化しやすい細胞資源である。 申請者らは脱落歯の歯髄細胞がActivin A, FGF, insulinなどの存在下で培養すると肝細胞類似の形態へ分化することを見出している。 さらにこの歯髄MSC由来の肝細胞が尿素サイクルや凝固蛋白産生能などを有するかについて、5人(1-5)の歯髄MSCから分化誘導した肝細胞をバイオカラム内で3次元培養し、肝の機能をアッセイした。 結果、これらの細胞は、有意に塩化アンモニウムを尿素に転換させた。またフィブリノーゲン産生能を有し、高いアルブミンやALT、へパプラスチンの産生能を有していた。またRT-PCR法によって尿素サイクルに関係したGlutamine synthetase, Carbamoyl phosphate synthetase, Arginase 1のほか、FibrinogenのmRNAの発現も確認された。 つまりこれらの細胞は分化肝細胞の機能を高度に有していることが判明した。これまで人工肝を用いた劇症肝炎の肝補助療法には高分化肝がん細胞株などが用いられてきたが、今後これらが有力な細胞資源となりうる。またMSCは再生能力に富み、免疫調整作用も有するため難治性肝疾患に対する有力な再生療法の細胞資源になることが期待される。本研究では動物モデルなどを用いてこの可能性を追求することを目標とする。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
次に申請者らはこの細胞の難治性肝疾患に対する再生療法の可能性を探求するため、ラットの急性肝障害モデルの作成を行った。既知の肝障害誘発物質として四塩化炭素、コンカナバリンA、D-ガラクトサミンを単独に投与して肝障害を誘発したが強い肝炎は再現できなかった。しかしCon-AとD-galactosamineをともに投与すると黄疸を伴う(T.Bil 6.7)の強い肝炎(AST/ALT=7190/1970)を起こすことが分かった。この肝障害の程度をエンドポイントとして、歯髄のMSC由来の肝細胞を尾静脈から静脈注射した効果を検証する実験に入っている。 このようにラットを用いた急性重症肝障害モデルの作成に成功し、本研究計画の主体である動物モデルを用いた歯髄MSC由来の肝細胞の再生医療への応用実験を2年目で開始できたことは、本研究が概ね順調に進展していると自己評価した理由である。一方この細胞を三次元培養し薬剤毒性のScreeningに用いるための基礎実験については今年度中に一定の方向性を示したいと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
2年目以降は作成したラットの急性肝障害モデルを用いて、歯髄MSC由来の肝細胞の治療効果を検証する。MSCを急性肝障害や肝硬変モデルに投与してその治療効果を検証した報告は散見されるが、我々のように実際に肝細胞に分化させて、その機能を調べ、更に動物モデルで解析した報告はなくその効果が期待される。 一方、共同研究者の石川らは、この細胞をラット肝動脈から投与し、どれくらいが肝に生着するかという実験を行っている。ラットの肝動脈から動注する実験は至難の業であるが、人においては劇症肝炎の状況でも肝動脈動注は可能であり(ラットよりはるかに容易である)、是非この実験系を成功させ、重症肝障害のMSCによる肝動脈動注療法の有用性の実験にチャレンジしたい。また通常の尾静脈静注療法でも効果がある場合は、培養上清のみでもParacrine機構によって治療効果をもたらす可能性がありこちらの実験も行いたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
1、本学動物実験施設の整備に時間がかかったことや、また重症肝炎モデルの作成に種々の薬剤の比較を行って若干時間がかかったため、動物実験に要した費用が少なかった。今現在動物実験は順調に進行しているため、2年目以降に使用する予定である。 2、歯髄から分化した肝細胞を3次元培養する系の構築には新たなカラムなど購入する必要性がなかったため繰越金が生じた。本年度以降はこれらのカラムや培養機材を購入する予定である。
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