研究課題/領域番号 |
17K08975
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研究機関 | 東京医科歯科大学 |
研究代表者 |
戸塚 実 東京医科歯科大学, 大学院医歯学総合研究科, 教授 (60431954)
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研究分担者 |
大川 龍之介 東京医科歯科大学, 大学院医歯学総合研究科, 助教 (50420203)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | high-density lipoprotein / apolipoprotein B / 冠動脈疾患 / 蛍光標識コレステロール / foam cells / polyethylene glycol / コレステロール逆転送 |
研究実績の概要 |
高比重リポタンパク(HDL)のコレステロール逆転送作用(抹消組織の過剰なコレステロールを肝臓に転送する)はHDLのもつ抗動脈硬化作用(その他は抗酸化作用、抗炎症作用、抗血栓作用など)の中で最も重要な作用と考えられている。この作用の最初のステップがHDLによる細胞からのコレステロール引き抜き(コレステロール引き抜き能)であり、この能力を検査することで心血管疾患発症のリスクを評価できる可能性が報告されている。しかし、臨床現場において実施する検査としては、いくつか困難な課題が存在している。第一に放射性同位元素で標識したコレステロールを使用することであったが、これは蛍光物質で標識したコレステロールを使用する方法が既に報告されている。第二に超遠心法という高価な機器を使用するうえに煩雑な操作でHDLを分離する必要があったが、これもポリエチレングリコール(PEG)を用いた沈殿法で代用できる可能性が報告されている。ただし、得られた試料はHDL以外の血清蛋白を含んでいるため、その妥当性の評価が今後の課題になっている。第三の課題として、同じく煩雑な操作を必要とする培養細胞を使用しなければならないことであった。私たちのグループでは、蛍光標識コレステロールを含むリポソームを固定化した担体を細胞の代わりに用いる方法を考案し、その作製法および解析実施法の第1バージョンを構築した。その方法を用いて得られたコレステロール引き抜き能は、従来実施されている培養細胞、放射性コレステロールを用いる方法と非常によく相関する結果が得られた。これらの成果は2018年3月に英文専門誌に発表した(Bioscience Reports, 2018, doi:10:1042/BSR20180144)。ただし、前述のPEG を用いた沈殿法が適合しないと思われる検体を散見し、PEG沈殿法の妥当性評価の必要性が明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初、培養細胞に代わるデバイスの開発には相当な時間がかかると考えていた。私たちが従来から考えていたHDLのコレステロール引き抜き能はHDLがコレステロールを取り込める物理量によって決まる、すなわち、コレステロールドナーは培養細胞でなくてもコレステロールを含むリポソームで十分であると推測していた。しかし、私たちの課題はそのリポソームを固定化することであった。論文検索を重ねた結果、シリカゲルにリポソームを固定化し、いわゆるアフィニティークロマトグラフィとして使用するという報告に行き当った。ただし、市販のシリカゲルでは粒子径が大きいうえに不均一であることから、定量的に分注するという私たちの使用法から考えて不適当であったため、比較的粒子が均一で極めて粒子径の小さいゲル濾過クロマトグラフィのゲルの代用を思いついた。何回にも及ぶ実験の結果リポソームの固定化が可能なことを確認し、基本特性試験の結果この方法が極めて有用である可能性が判明した。したがって、実検体を用いて測定法の基本性能を評価するとともに、従来法との関係を検討したところ非常に良好な相関関係が得られた。そこで私たちは、この新規コレステロール引き抜き能評価法に関する論文作成に取り組み、2018年3月には論文を発表することができた(Bioscience Reports, 2018, doi:10:1042/BSR20180144)。臨床現場での使用に当っては、さらに本法の細部を確立することと、得られた結果をどのように評価するかについて確立することが望まれるが、1年間で基本法を論文発表できたことは、当初の計画以上に研究が進展していると評価できると考える。
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今後の研究の推進方策 |
HDLのコレステロール引き抜き能を評価するために超遠心法でHDLを調製するのは臨床現場での評価法としての利用を考えた場合、その煩雑さから不可能に近い。そこで、今回は既に報告されているポリエチレングリコール(PEG)を用いてapoBを含むリポタンパク(HDL以外のリポタンパク)を沈殿除去した上清(apoB depleted serum: BDS)をHDLの代用とする方法を選択した。しかし、BDSはHDL以外に多くの血漿タンパクを含んでおり、HDLのコレステロール引き抜き能を評価するうえで問題であることも多く報告されている。私たちは、BDSにはそのような欠点があるものの、BDSを使用したコレステロールの引き抜き能の測定は、HDLの量と機能を同時に評価できる点で優れた方法である可能性を考えている。したがって、今後はBDSの有用性と正当性の評価を実施していく予定である。すなわち、得られたデータがHDLのコレステロール引き抜き能を反映するためには、従来法との相関が良好であることに加えて、BDSがHDLの作用を反映することを明らかにしなければならない。一方、更なる簡易測定を目指して、BDSの代わりに血清そのものをコレステロールアクセプターとして用いることの可能性も追求する。最終的に臨床検査室で容易に実施できる方法を確立し、臨床におけるコレステロールの引き抜き能の測定が心血管疾患発症リスクの予見に有用であることを実証していく予定である。加えて、培養細胞には各種トランスポーターが存在しコレステロールの引き抜きを促進していると考えられるが、それらが存在しないリポソーム固定化ゲルで同様の結果が得られるメカニズムを明らかにし、HDLの持つコレステロール引き抜き能の生理学的な意味についても探求したい。
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