研究課題
アミロイドーシスは可溶性の蛋白質が難溶性のアミロイドへと変化し、諸臓器に沈着することで臓器障害を引き起こす難治性の疾患群である。これまでにアミロイドを形成する蛋白質は36種類報告されているが、我々は、高齢者の消化管の静脈を主体にEFEMP1蛋白質由来のアミロイドが沈着することを世界に先駆け発見した。本研究では、EFEMP1アミロイドーシスの臨床病態およびアミロイド沈着メカニズムを解明することを目的とする。研究計画2年目にあたる平成30年度は、以下の点を明らかにした。(1)EFEMP1アミロイド沈着様式の解明:病理組織からEFEMP1アミロイドを抽出し、質量分析装置(LC-MS/MS)で解析した結果、EFEMP1蛋白質のC末端領域由来ペプチドが多数検出された。さらに、EFEMP1アミロイドを各種EFEMP1抗体(N末端認識抗体、C末端認識抗体)を用いたウエスタンブロッティングにより解析すると、10kDa付近にC末端認識抗体に反応するEFEMP1由来のバンドが認められた。EFEMP1は約55kDaの蛋白質であることから、断片化したC末端領域のEFEMP1が主体となりアミロイドを形成している可能性が高い。(2)アミロイド形成能の評価:EFEMP1由来の各種ペプチド(N末端、C末端)を作製し、in vitro でアミロイド形成能を評価した結果、C末端由来ペプチドが高いアミロイド形成能を有していた。(3)EFEMP1アミロイドの細胞毒性の評価:C末端ペプチドを由来とするアミロイドは、ヒト臍帯静脈内皮細胞株(HUVEC)に対して濃度依存的に毒性を誘導した。以上の結果をまとめ国際英文誌に報告した(Tasaki et al., J Pathol 2019)。
2: おおむね順調に進展している
当初の計画通り、EFEMP1アミロイドの多角的な生化学的解析で、断片化したC末端由来EFEMP1が主体となりアミロイドを形成していることを明らかにし、EFEMP1アミロイド形成メカニズムの一端を明らかにした。さらに、C末端ペプチドを由来とするアミロイドは、ヒト臍帯静脈内皮細胞株に対して濃度依存的に毒性を誘導するとを突き止めた。本年度は、前年度の研究成果と合わせ、得られた知見を国際英文誌に報告することができた(Tasaki et al., J Pathol, 2019)。解析を進める中で、副産物として、原因蛋白質不明の新たなアミロイドを発見することができたため、今後さらなる解析を行う。
研究計画の3年目である2019年度は、これまでの研究をさらに発展させる。(1)EFEMP1アミロイド沈着組織の解析:近年、EFEMP1のSNPが下肢静脈瘤の発症に関与することが報告された。そこで、下肢静脈瘤を含む病理組織を用いた解析を行い、EFEMP1アミロイドの全身臓器の分布を明らかにする。(2)EFEMP1アミロイドーシスに関する発症予測マーカーの探索:消化管組織に沈着した EFEMP1 アミロイドをレーザーマイクロダイセクションで採取し、可溶化後、質量分析装置 (LC-MS/MS) を用いて構成蛋白質を同定する。同定された蛋白質の中から、原因蛋白質である EFEMP 1 以外のアミロイドに共存する蛋白質に着目し、血中発症予測マーカー候補を探索・同定していく。(3)EFEMP1アミロイドの病態解析:引き続き、EFEMP1アミロイドーシス患者の臨床データを蓄積する。(4)新規アミロイド原因蛋白質の同定:本プロジェクトの中で発見した原因蛋白質不明アミロイドの原因蛋白質同定を目指した病理学的、生化学的解析を実施する。
(理由)購入予定であった実験物品の購入を次年度としたため。(使用計画)EFEMP1アミロイドの沈着頻度の解析やアミロイド共存蛋白質の解析に必要な免疫組織化学染色、ウエスタンブロッティング、質量分析関連消耗品などを購入する。研究成果を発表するための旅費に使用する。
すべて 2019 その他
すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 2件、 査読あり 3件、 オープンアクセス 1件)
The Journal of Pathology
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