研究課題
アミロイドーシスは可溶性の蛋白質が難溶性のアミロイドへと変化し、諸臓器に沈着することで臓器障害を引き起こす疾患群の総称である。アミロイドを形成する蛋白質は、これまでに、ヒトにおいて36種類知られている。我々は、新規のアミロイド原因蛋白質としてEGF-containing Fibulin-Like Extracellular Matrix Protein 1 (EFEMP1)を同定し、世界に先駆け報告した(Tasaki et al., J Pathol 2019)。しかし、その病態は未だ不明な点が多く、バイオマーカーの開発にも至っていない。本研究では、EFEMP1アミロイドーシスの病態解明および診断マーカーの開発を目的とし、研究を実施する。研究計画3年目にあたる2020年度は、以下の点を明らかにした。(1)下肢静脈瘤を発症した患者病理組織において、頻度は低いものの、一部の症例でEFEMP1アミロイドが沈着していることを明らかにした。(2)病理学的検討の結果、コンゴーレッド染色やチオフラビンT染色に比べ、FSB染色がEFEMP1アミロイドの検出に優れることがわかった。(3)バイオマーカーを探索するために、EFEMP1アミロイド沈着部位を対象にLC-MS/MSを用いた網羅的解析を実施した結果、serum amyloid P、apolipoprotein Eやvitronectinに加え、多数の候補蛋白質を同定した。(4)昨年同定した新規アミロイド原因蛋白質の候補は、病理組織で敷石状の沈着パターンを示すことがわかった。また、複数の原因不明アミロイドを呈する症例で、共通の新規アミロイド蛋白質の候補が同定できた。
2: おおむね順調に進展している
当初の計画通り、病理学的・生化学的解析によって、本アミロイドーシスの病態が明らかとなりつつある。(1)下肢静脈瘤を発症した患者病理組織において、頻度は低いものの、一部の症例でEFEMP1アミロイドが沈着していることをコンゴーレッド染色および抗EFEMP1抗体を用いた免疫染色により明らかにした。(2)これまでの検討で、本アミロイドはコンゴーレッドの染色性が弱陽性であることから、病理学的な診断精度の向上を目指し、各種染色法の検討を実施した。その結果、コンゴーレッド染色やチオフラビンT染色に比べ、FSB染色が本アミロイドの検出に優れることがわかった。モノクローナル抗EFEMP1抗体を併用することでさらに本アミロイドを検出しやすくなることがわかった。(3)バイオマーカーを探索するために、EFEMP1アミロイド沈着部位をレーザーマイクロダイセクションで採取し、可溶化後、LC-MS/MSでの解析を実施した。複数例を用いた解析の結果、アミロイド共存蛋白質として知られているapolipoprotein E、 serum amyloid P、apolipoprotein AIVやvitronectinに加え、多数の候補蛋白質が同定できた。(4) 本研究の副産物として、質量分析装置を用いた検討から、複数の症例において共通の新規アミロイド候補蛋白質が沈着することを突き止めた。EFEMP1に次ぐ、新規のアミロイド原因蛋白質と考えられることから、引き続き検討を行う。
研究計画の最終年度にあたる2020年度は、引き続き、病理学的・生化学解析を実施するとともに、本研究を総括する。具体的には以下の研究に取り組む。(1) 全身臓器におけるEFEMP1アミロイドの沈着パターンおよび頻度に関して、症例数を増やし病理学的に検討する。(2)これまでの質量分析装置を用いた検討で同定された蛋白質の中から、バイオマーカーとして有用な蛋白質をコントロール群と比較し同定する。(3)本プロジェクトで見出した新規アミロイド原因蛋白質の候補が、アミロイド原因蛋白質としての性質を持ち合わせているか、生化学的・病理学的手法を駆使し多角的に検証する。(4)本研究で得られた結果の総括を行い、国際英文誌に報告する。
予定していた国際学会への参加が、コロナウイルス感染症の影響により、延期となったため。(使用計画)延期になった国際学会が2020年度に開催予定であるため、学会旅費に充てる。中止となった場合は、病理学的・生化学的解析に用いる、抗体やメンブレンスライド、トリプシン、消耗品の購入に充てる。
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すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (1件) (うち国際共著 1件、 査読あり 1件) 学会発表 (4件) (うち招待講演 1件) 図書 (1件)
Blood
巻: 134 ページ: 320-323
10.1182/blood.2019000420