研究課題/領域番号 |
17K08989
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研究機関 | 名古屋市立大学 |
研究代表者 |
杉浦 知範 名古屋市立大学, 医薬学総合研究院(医学), 准教授 (60535235)
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研究分担者 |
久野 敦 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 生命工学領域, 研究グループ長 (50302287)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 糖鎖蛋白 / 大動脈瘤 |
研究実績の概要 |
大動脈瘤の発生機序には大動脈の脆弱化が大きく関与しており、その脆弱化は炎症、結合組織異常、粥状硬化等による血管壁の構造異常や形体破綻によってもたらされる。なかでも腹部大動脈瘤では、血管内腔側に強い動脈硬化性病変を認めることが多く、瘤の発生に動脈硬化が強く関連すると考えられている。しかしながら、腹部大動脈瘤の発生には糖尿病や脂質異常との関連性が乏しいなどといった報告もあることから、動脈硬化性病変の進展のみでは説明できない点もあり他の要因の関与が示唆されている。また、多くの例が発症から進展過程において無症候であり、早期診断が困難である。一方、近年脚光を浴びている糖鎖は蛋白などと結合し、細胞表面に存在して個々の細胞に特異的な情報提示や細胞間情報伝達などの役割を果たす。なかでも特定の糖鎖蛋白による疾患の発症および増悪との関連が注目されており、最近、我々は糖鎖蛋白の一つと動脈硬化の関連について報告した。本研究では動脈硬化性大動脈瘤に対して組織および血液の網羅的糖鎖解析を行い、大動脈瘤形成と関連の強い指標を探索することを目的として本研究を計画した。 動脈硬化性腹部大動脈瘤の診断で外科的手術に至り病理組織採取に至った症例は27症例であった。侵襲性の低い大動脈ステントグラフト治療が選択される対象が増加しているため、当初の予定に比べて外科治療が選択される対象が少なく登録が予定よりも遅れた。その後は指定された方法で作成したスライド切片を分担施設である産総研に送付し、糖鎖解析を展開し、大動脈瘤に関連する候補となる糖鎖蛋白の同定を行った。現在は候補となる糖鎖蛋白のなかから確認作業を行う段階であるが組織の改編やコロナウイルス感染拡大の影響もあり研究が遅滞していた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
2020年度は大動脈瘤組織切片の血管壁構造の破綻部と比較的構造が保たれた部位について比較糖鎖プロファイル解析を行った。計26検体のうち、両部位が確認された15検体において、5検体ずつ3回に分けてスライド染色、レクチンアレイ分析をおこなった。レクチンアレイでは、まずNet intensityでの比較を行ったが、全体での部位間の比較では大きな差は認められなかったが、同一検体の部位間で有意差があるレクチンが挙げられた。標準レクチンで標準化したデータの比較においても全体の部位間比較では大きな差を認めなかったが、同一検体の部位間比較で有意差のある候補が挙げられた。これらのなかから、組織染色レクチンの選抜を行い、検証を進め候補を絞り込んだ。 2021年度は1レクチンをコントロールレクチンとしてプレ実施したのちに、6レクチン6症例を蛍光染色した。組織形態を見やすくするためのコントロールレクチンとしてWGAレクチンも使って2重染色を実施した。そのなかで、代表的な標本において血管構造が比較的保たれた組織部位と血管構造の破綻した動脈瘤組織の部位でのコントラストが強い2レクチンに絞りさらに検討を進めた。 残りの9検体でコントロールレクチンとしてWGAを用いてWGAにおいては差がないところを確認したうえで対象レクチンのシグナル強度を比較した。9検体間での検討では定まった傾向は認められなかった。同一検体内で血管構造が比較的保たれた組織部位と血管構造の破綻した動脈瘤組織の部位での検討では、正常構造に近いと部位であっても組織障害が始まっているところもあり動脈瘤病変部とのレクチンコントラストが出にくい可能性があると推察された。
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今後の研究の推進方策 |
予定されていた症例数よりも対象が少なかったことと組織の改編やコロナウイルス感染拡大の影響もあり研究が遅滞していた。またこれまでの結果では異なる検体間での差異、同一検体の組織部位での差の検討においても予想と異なるものであった。今後は個々の組織標本を見直し、糖鎖蛋白の発現に関して異なるプロファイリング手法を検討していく。プロファイリング手法がまとまれば血液中への分泌およびmicroRNAとの関連性を検討し、血液バイオマーカーとなりうるか評価する。
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次年度使用額が生じた理由 |
論文作成などに関する経費を想定していたが、予定されていた症例数よりも対象が少なかったことと組織の改編やコロナウイルス感染拡大の影響に加え、結果が予想と異なるものとなり画一的な方法で研究を進められなかった。
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