研究課題/領域番号 |
17K08994
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研究機関 | 東邦大学 |
研究代表者 |
土屋 勇一 東邦大学, 医学部, 講師 (10307738)
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研究分担者 |
山崎 創 東邦大学, 医学部, 准教授 (70315084)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | cFLIP / 非アルコール性脂肪性肝炎 / 血清バイオマーカー |
研究実績の概要 |
非アルコール性脂肪性肝疾患は、飲酒量が少ないにも関わらず肝臓に脂肪が蓄積する疾患であり、世界的に増加傾向にある。患者の一部は慢性炎症により肝細胞の細胞死と線維化が進行した非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)を発症し、やがて肝硬変や肝がんに至るが、その発症メカニズムは不明な点が多い。またNASHの確定診断に用いられる肝生検は侵襲性が高いことから、血液などを用いたより侵襲性の低い診断法が求められている。一方でNASHにおける肝細胞の喪失を代償するために、肝前駆細胞もしくは肝細胞自身が増殖することが知られている。この視点に基づいて我々は、NASH肝における細胞増殖の誘導機構および関与する増殖因子を解明することにより、NASHの新たな診断法および治療戦略の開発を目指している。 細胞死阻害タンパク質であるcFLIPを肝細胞特異的に発現低下させたマウスは、様々な肝障害に対する感受性が亢進しており、各種肝疾患の病態モデルとして有用である。我々はこのマウスに対して、実験的NASH誘導モデルであるコリン欠乏エチオニン添加食を4週間投与したところ、対照マウスと比較して肝細胞死の亢進と血清ALTの上昇、さらに慢性肝障害に伴い出現する肝前駆細胞の著明な増加や肝線維化の亢進など、NASHの増悪が認められた。我々はこのモデルを用いて網羅的な遺伝子発現解析を行い、NASH増悪肝で発現が上昇する増殖因子を複数同定した。現在はこのうち線維芽細胞増殖因子ファミリーに属するFGF18に着目して、NASH増悪肝における機能解析を行っている。さらに我々は、NASH増悪マウスのみならずヒトNASH患者においても血清中のFGF18濃度が上昇することを見出しており、FGF18はNASHの診断に利用できる新規血清バイオマーカーとしても有用であることが示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
FGF18を全身で欠損したマウスは胎生致死となることが報告されていたため、成体肝におけるFGF18の機能解析には組織特異的欠損マウスの作成が必要であった。我々はin situ ハイブリダイゼーションおよび免疫組織染色によって、NASH増悪肝におけるFGF18産生細胞が肝細胞であることを同定した。そこで我々は肝細胞特異的FGF18欠損マウスおよび肝細胞特異的cFLIP/FGF18二重欠損マウスを作成して、コリン欠乏エチオニン添加食を投与し詳細な解析を行っている。またFGF18を肝細胞特異的に過剰発現するマウスも作成中である。 また東邦大学医療センター大森病院消化器センター内科と共同で臨床研究に着手し、健常者ボランティア・単純脂肪肝患者・NASH患者の血清ELISA解析を行った。その結果、FGF18はNASH患者血清において高値を示し、既存の血清バイオマーカーであるサイトケラチン18切断断片よりも優れているという有望な結果を得ることができた(特許出願中)。さらにヒト肝臓組織におけるFGF18の免疫染色を行ったところ、正常肝ではほとんど発現が見られず、脂肪性肝疾患患者および肝硬変患者の肝細胞において発現が上昇することを見出した。したがって我々がマウスにおいて見出したNASH増悪肝におけるFGF18の発現上昇は、ヒトNASH患者においても起こる普遍的な現象であることが明らかになった。
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今後の研究の推進方策 |
マウス実験においては、肝細胞特異的FGF18欠損マウス、肝細胞特異的cFLIP/FGF18二重欠損マウスおよび肝細胞特異的FGF18過剰発現マウスを用いて解析を進め、NASHの病態形成におけるFGF18の機能的役割を解明する。さらにFGF18組換えタンパク質をマウスに投与することでNASHの増悪を抑制できるかどうかを検討し、NASH治療薬としてのFGF18の可能性を探る。なお肝細胞特異的cFLIP/FGF18二重欠損マウスを用いた予備的な解析から、肝細胞でFGF18を欠損させても血清FGF18濃度はあまり低下しないことが判明した。したがって血清FGF18は肝臓以外の他臓器からも由来する可能性が示唆された。実際に我々は、各種肝障害の際にFGF18の発現が上昇する他の臓器を見出している。これは肝障害を他の臓器が感知して応答する「臓器間連関システム」の存在を示唆するものであり、現在検討を進めている。 また我々は、ヒト肝がん由来細胞HepG2においてFGF18 の発現を一過的に誘導する薬物を2種類同定している。今後はこれらの薬物を用いて、ヒト培養細胞およびマウス単離肝実質細胞におけるFGF18の発現誘導機構をin vitroで解明するとともに、NASH肝におけるin vivoでの発現誘導との関連を明らかにする。 臨床研究においては、さらに症例数を増やして解析を進め、非アルコール性脂肪性肝疾患の鑑別診断に利用できる新規血清バイオマーカーとしてのFGF18の有用性を検証し実用化を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額は年度末における不測の出費に備えて確保したが、使用せずに済んだものである。翌年度分として請求した助成金と合わせて、引き続き研究予算として使用する予定である。
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