非アルコール性脂肪性肝疾患は、飲酒量が少ないにも関わらず肝臓に脂肪が蓄積する疾患であり、世界的に増加傾向にある。患者の一部は慢性炎症により肝細胞死と線維化が進行した非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)を発症し、やがて肝硬変や肝がんに至るが、その発症メカニズムは不明な点が多い。またNASHの確定診断に用いられる肝生検は侵襲性が高いことから、血液などを用いたより侵襲性の低い診断法が求められている。一方でNASHにおける肝細胞の喪失を代償するために、肝前駆細胞もしくは肝細胞自身が増殖することが知られている。この視点に基づいて我々は、NASH肝における細胞増殖の誘導機構および関与する増殖因子を解明することにより、NASHの新たな診断法および治療戦略の開発を目指している。 細胞死阻害タンパク質であるcFLIPを肝細胞特異的に発現低下させたマウスは、様々な肝障害に対する感受性が亢進しており、各種肝疾患の病態モデルとして有用である。我々はこのマウスに対して、実験的NASH誘導モデルであるコリン欠乏エチオニン添加食を4週間投与したところ、対照マウスと比較してNASHの増悪が認められた。我々はこのモデルを用いて網羅的な遺伝子発現解析を行い、NASH増悪肝で発現が上昇する増殖因子としてFGF18を見出した。正常な肝臓においてFGF18を一過的に過剰発現させると肝細胞の増殖が誘導され、恒常的に過剰発現させると肝臓が対照マウスの約1.5倍に腫大した。したがってFGF18はNASH肝において肝細胞死により発現が誘導され、失われた肝細胞を増殖させることで肝臓の恒常性を維持する増殖因子であると推測された。さらに我々はヒトNASH患者においても血清中のFGF18濃度が上昇することを見出し、FGF18がNASHの診断に利用できる新規血清バイオマーカーとして有用であることを示し特許を申請した。
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