研究課題/領域番号 |
17K08998
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研究機関 | 近畿大学 |
研究代表者 |
永井 宏平 近畿大学, 生物理工学部, 准教授 (70500578)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 翻訳後修飾 / 自己免疫疾患 / 血管炎 / 診断マーカー / 質量分析 |
研究実績の概要 |
平成29年度に臨床検体(末梢血)から精製したミエロペルオキシダーゼ(MPO)をトリプシン消化した後に、質量分析計(MS)で解析し、キヌレニン化などの酸化修飾の度合いを定量する方法を確立した。 そこで平成30年度は、平成29年度に確立した手法を用いて、数名のMPO-ANCA陽性患者と健常者から精製してきたMPOを同様に解析し、患者―健常者間で翻訳後修飾に違いがあるかどうかを検討した。その結果、当初の目的であるトリプトファンのキヌレニン化が患者のみで検出されたのに加え、各種酸化修飾、脱アミド反応、脱水反応、脱アンモニア反応、脱チオメチル反応などのタンパク質の劣化に関わる修飾がMPO-ANCA陽性患者で多く検出されていることが示され、キヌレニン化に加え、これらの修飾がANCA関連血管炎の診断マーカーとして使用できる可能性が示された。来年度は、引き続き、ANCA陽性患者、健常者、その他炎症性疾患患者の検体数を増やし、これら修飾を受けたMPOの診断マーカーとしての価値を評価する予定である。 また、昨年度に引き続き、酸化修飾したマウスタンパク質をマウスに免疫することで、自己抗体の産生機序を解明する実験も行った。まず、昨年度と同様に酸化したマウス血清アルブミン(oxMSA)をマウスに免疫することで、一時的に抗MSA抗体が生じることを再度確認し、実験に再現性がみられることを確認した。次に、酸化修飾を導入したMPO(oxMPO)をマウスに免疫した。この場合も抗MPO抗体の産生がみられたが、酸化修飾を導入しないMPOにおいても抗MPO抗体が産生され、有意な差がみられなかった。今後は、酸化修飾の導入法、導入量、マウスの系統などを検討し、酸化修飾と自己抗体産生の関係を探る。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は、ANCA関連血管炎の診断マーカーの開発という面では、(1)臨床検体から精製したMPOの翻訳後修飾を解析し、患者ー健常者間で比較できることを示した。(2)MPO中のトリプトファンのキヌレニン化が患者で増加していることを示し、診断マーカーとして利用できる可能性を示した。(3)酸化修飾、脱アミド化、脱アンモニアなど、キヌレニン化以外の修飾も、患者MPO中で増加していることが示され、これらが診断マーカーとして利用できる可能性を示した。以上3点の成果を挙げることができ、研究はおおむね順調に進展していると判断した。 また、研究が順調に進行しなかった場合の保険の研究と位置づけていた酸化修飾導入マウスタンパク質のマウスへの免疫による自己抗体の産生機序の解明に関する研究においては、大きな進捗はなかったものの、酸化修飾アルブミンの免疫によって、自己抗体が一時的に産生されることが再度確認され、実験結果の信頼性を挙げることができた。 以上のことから、(2)概ね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
研究計画通りに、ANCA陽性血管炎患者、健常者、その他炎症性疾患患者の検体の数を増やし、検体から採取したMPOを質量分析計で解析して翻訳後修飾の解析を行う。特に、キヌレニン化MPOの量を定量し、診断マーカーとしての評価を行う。また、平成30年度に新たに見つかった、脱アミド化MPO、脱水MPO、脱アンモニアMPOなどについても定量を行い診断マーカーとして評価していく予定である。 また、自己抗体の産生機序を解明する研究も続ける。酸化修飾アルブミンを用いた免疫実験によって、酸化修飾条件、免疫条件、使用するマウス種などの検討を行い、より自己抗体価が上昇する条件を検討する。見出した条件を用いて、酸化修飾マウスMPOを免疫する実験も行い、ANCAが産生するかどうか、ANCA関連血管炎様の症状が発症するかどうかを評価する予定である。
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