研究課題
平成30年度は、(1)レジストリ研究の解析結果について論文作成中である。(2)バイオマーカー研究に関して、倫理審査委員会の承認を得て症例登録を開始した。(1)レジストリ研究の実績概要は以下のとおりである。急性腎障害(AKI)の定義:AKIは48時間以内に血清クレアチニン値が0.3mg/dlまたは1.5倍増加と定義。利尿薬反応性:利尿薬反応性の定義は、入院後5日間の体重減少/[(静脈内投与量)/40mg]+[(経口投与量)/80mg]フロセミドとした。研究デザイン:患者をAKIの発症の有無および利尿薬反応性の高低によって4つの群に分類(①AKI無/低利尿薬反応、②AKI無/高利尿薬反応、③AKI有/低利尿薬反応、④AKI有/高利尿薬反応)した。エンドポイントは全死亡とし、利尿薬反応性がAKIの生命予後悪化リスクを階層化するか否かを評価した。統計分析:生存率の評価は、Kaplan-Meier分析を用いて実施し、有意差はlog-rank検定を用いて分析。生命予後の関連因子は、単変量および多変量Cox比例ハザード分析を用いて評価。さらに、AKI有+低利尿薬反応群の関連因子を単変量と多変量解析を用いて評価した。結果:AKIと利尿薬反応性:Kaplan-Meier生存分析の結果、AKI有/低利尿薬反応の患者群の死亡率が有意に高値であった(log-rank検定、P <0.001)。Cox比例ハザード分析の結果、死亡リスクはAKI有/低利尿薬反応の患者群においてAKI有/高利尿薬反応の患者群と比較して有意に高値であった。AKI有/低利尿薬反応群の関連因子:尿素窒素高値および静脈内ドブタミン投与が、AKI有/低利尿反応の独立した関連因子であった。以上の結果より、急性心不全の重症度に応じてAKIの発症を伴う利尿薬低反応性を来し、生命予後悪化に繋がる可能性が示唆された。
2: おおむね順調に進展している
平成30年度研究計画は下記の2つを実施した。(1)レジストリ研究 利尿薬反応性の定義:第1病日および第5病日の体重記録より体重減少量を算出。第1病日から第4病日までの利尿薬投与記録より投与量を算出。フロセミド40 mgあたりの体重減少率(kg/40 mg furosemide)を利尿薬反応性と定義。本定義に基づき利尿薬反応性を算出した。(2)バイオマーカー研究 国立循環器病研究センターの倫理審査委員会へバイオマーカー研究の倫理審査申請を行い、症例登録を開始した。(1)レジストリ研究に関する結果の概要は「研究実績の概要」に記載したとおりである。(2)バイオマーカー研究に関して、当施設の研究倫理審査委員会における研究実施の承認(承認番号:M30-087)を得て、症例登録を実施中である。
平成31年度は、バイオマーカー研究について症例登録およびバイオマーカー測定および結果解析を実施することである。バイオマーカー研究は、利尿薬反応性の三分位値によって3群に分類(低反応性群、中等度反応性群、高反応性群)し、尿中NGAL、KIM1、Clusterin、Osteopontin、Collagen IV、MCP-1、血中エリスロポエチン濃度、ヘモグロビン値および臨床所見(下記リスト)について比較する。3群間に有意差を認めた指標を独立変数として利尿薬反応性の独立規定因子を同定する。臨床所見リスト:年齢、性別、病歴(急性心不全入院の既往)診察所見(身長、体重、BMI、脈拍、収縮期血圧、拡張期血圧、NYHA分類、)、血液検査(動脈血液ガス分析、生化学検査、電解質、検血、)、尿検査、心エコー図検査所見(左心房径、左心室拡張末期径、左心室収縮末期径、心室中隔壁厚、左心室後壁厚、左心室駆出分画、Fractional shortening、下大静脈径、左心室流入E波Peak velocity、左心室流入A波Peak velocity、E/A比、E波減衰時間)、入院前治療薬剤(フロセミド、トラセミド、アゾセミド、スピロノラクトン、エプレレノン、サイアザイド、トルバプタン、アンジオテンシン変換酵素阻害薬、アンジオテンシンII受容体拮抗薬、Ca拮抗薬、β遮断薬など)、入院後治療薬剤、薬剤投与量、非侵襲的陽圧換気療法(NPPV)の使用有無、気管内挿管と人工呼吸器管理の有無、補助循環装置(大動脈バルーンパンピングIABP、経皮的心肺補助法PCPS)治療経過、臨床経過(急性腎障害の有無)
(1)レジストリ研究に関しては解析まで終了。平成30年度には(2)バイオマーカー研究について倫理審査委員会の研究承認を得て症例登録および尿サンプル収集を実施した。平成31年度には(2)バイオマーカー研究について症例登録および尿サンプル収集の完遂および尿バイオマーカー測定と結果解析を実施する。主に研究補助員の人件費、バイオマーカー測定費に助成金を使用する予定である。
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Cardiovasc Drugs Ther.
巻: 32 ページ: 183-190