研究課題/領域番号 |
17K09004
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研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
松下 一之 千葉大学, 医学部附属病院, 准教授 (90344994)
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研究分担者 |
西村 基 千葉大学, 医学部附属病院, 講師 (80400969)
星野 忠次 千葉大学, 大学院薬学研究院, 准教授 (90257220)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 非ウイルス性慢性炎症 / 自己抗体 / バイオマーカー / がん治療 / がん診断 / スプライシング変異 |
研究実績の概要 |
非ウイルス性の慢性炎症が癌化を誘導するメカニズムは未解明の点が多い。以前より、持続する慢性炎症が癌化の一因になることが示唆されている。本年はc-myc遺伝子転写抑制因子FIR、Far-upstream element-binding protein-interacting repressor(別名PUF60)がWntシグナル(c-myc遺伝子の発現増大をもたらす)の活性化からみた発癌機序や早期診断法の確立をめざす。消化器癌ではFIRの転写抑制部位のexon 2を欠損したスプライシング変異 (FIRdelexon 2) が発現し、ドミナントネガティブ効果によりc-myc遺伝子の転写が活性化する。本研究ではFIRdelexon 2をはじめとするスプライシング異常のバイオマーカーとしての意義を検討する。本年は種々の癌患者の血清中に抗FIRs自己抗体が検出されることを報告した(Kobayashi et al., Can Sci 2019 in press)。最終年度は、抗PUF60/FIR自己抗体の多寡と予後との相関や臨床所見との比較を行う。MSI(microsatellite instability)陽性の癌では、局所免疫応用が活性化され免疫チェックポイント阻害剤が有効であることが示唆され、2018年末にMSI-highの全ての固形がん(肝がん、膵癌、胃癌、大腸がん、食道癌、前立腺がん、甲状腺がんなど)に対して免疫チェックポイント阻害剤(ペンブロリズマブ)が保険収載された。本研究では、癌細胞におけるスプライシング異常が増大する機序の一端を明らかとし、スプライシング異常に対する抗FIR/FIRΔexon2自己抗体の新規バイオマーカーとしての意義(予後との相関やMSI検査の結果との関連)、スプライシング異常を標的とした低分子化合物の開発などを目的とする。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本年度は、多種類のがん患者の血清中に抗PUF60/FIR自己抗体が検出されることを論文報告した(Kobayashi et al., Can Sci 2019 in press)。さらにELISA系を含む検出系の作製に着手しアミノ末端を認識する抗PUF60/FIR抗体を同定した。今後は癌病態との関連をより正確にしらべるため、抗PUF60/FIR自己抗体の多寡と予後との相関や臨床所見との比較を行う。中でもc-myc遺伝子転写抑制因子FIR(Far-upstream element-binding protein-interacting repressor)(別名PUF60)がスプライシング異常によりWntシグナル(c-myc遺伝子の発現増大をもたらす)の活性化を誘導し発癌に関わること、抗FIR/FIRΔexon2自己抗体(以下抗FIRs抗体)が種々の癌患者血清中で検出されることを世界で初めて報告した(Kobayashi et al., Oncotarget 2016, Cancer Sci 2019)。さらに癌で発現するFIR/FIRΔexon2はin vitroの実験で細胞内の多くの遺伝子のスプライシング異常を誘導することが、CHIP-seqやRNA-seqで示されている(未発表データ、論文準備中)。 がん患者血清中の抗FIRs抗体をAlphaLisaにより調べたところ、多くの癌で抗FIRs抗体が検出されることを世界で初めて報告した(Kobayashi et al., Oncotarget 2016, Cancer Sci 2019)。本研究では、抗FIRs抗体の陽性者の癌患者の予後が、陰性者の予後と比べて良好かどうかを調べる。それにより、スプライシング異常を標的とした新規バイオマーカーを同定し、その臨床的意義を検討した。
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今後の研究の推進方策 |
本研究ではWntシグナルの活性化による胃癌発症動物モデルとヒト胃癌臨床検体の解析を行い、FIRの機能異常の関連性に着目して癌化に関わる鍵分子を複数同定した(論文準備中)。本研究において胃癌を含む種々の癌患者の血清中に抗FIRΔexon2自己抗体の存在が確認できた。抗FIRΔexon2自己抗体の検出系の作製のために、研究分担者:星野忠治らが精製したFIRΔexon2全長タンパク質(513アミノ酸)を抗原として用いる予定である。現在までに検討では、ヒト胃癌組織とGanマウス胃腫瘍のタンパク質の比較するとp-ERK, FBW7, E-cadherinの発現に違いが認められた(未発表データ)。ヒト胃癌組織ではp-ERK, FBW7, E-cadherinの発現変化が炎症から癌化への形質転換(EMT: epithelial mesenchymal transition)に重要であることが強く示唆された。 1.クロマチン免疫沈降(ChIP)によりFIRあるいはFIRΔexon2のそれぞれに結合するタンパク質を質量分析で同定する。それによりFIRあるいはFIRΔexon2のそれぞれに結合するタンパク質や核酸(DNAやRNA)が同定され、それぞれのタンパク質の機能変化や未知の機能、Wntシグナルへのフィードバック機構などの解明につながる。 2.FIR/ FIRΔexon2/PUF60を特異的に阻害する低分子化合物を化合物スクリーニングとIn silico スクリーニングを用いて同定する。これらの低分子化合物は抗がん剤候補である。すでにこれまでに複数のFIR/ FIRΔexon2/PUF60に特異的に結合する低分子化合物を同定し、物質特許査定されている低分子化合物もすでにある。これらの低分子化合物の生理活性を検討する。
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