研究課題/領域番号 |
17K09007
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
片桐 孝和 金沢大学, 保健学系, 助教 (60621159)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 自己免疫疾患 / iPS細胞 / HLA / 造血幹細胞 / 骨髄移植 / 免疫不全マウス |
研究実績の概要 |
再生不良性貧血(再不貧)は、CTLによって造血幹細胞が傷害され発症する自己免疫疾患である。異常免疫が病態背景にあることの根拠として、症例の14%では、HLA遺伝子領域を含む第6番染色体短腕において、片親性2倍体により6pLOHを来した結果、片親由来の特定のHLAアレルを発現できなくなった血球が検出される。この現象は、CTLによる選択的な攻撃を受けた造血幹前駆細胞(HSPC)がその攻撃を回避した結果であり、6pLOH陽性HSPCに由来する様々な血球が末梢血中に存在していることを示している。本研究では、再不貧の発症に直接関与する分子を同定し、疾患の病態解明および新規治療法の確立を目的としている。 平成29年度は、6pLOHの有無について同定済みの症例末梢血を用いて、NGSにより特定HLA遺伝子発現の変異の有無を確認したところ、6pLOHが陽性であった例であっても、ハイリスクアレルであるHLA-B*4002遺伝子に変異を起こした結果、HLA-B61の発現を単独で欠失した症例を同定した。このように、CTLにより免疫学的攻撃を受けた造血幹前駆細胞に由来する血球のphenotypeはモザイク状態であり、6pLOH陽性血球、正常血球、HLA-B61欠失血球、またこれらが混在した血球を有する症例も同定した。 また、症例末梢血中の単球からiPS細胞を樹立し、特定のphenotypeを有するHSPCを誘導することに成功した。さらに、このHSPCからCD34陽性細胞のみを選択的に抽出後、BRGSマウスに骨髄移植を行い、特定のphenotypeをもつヒト造血マウスモデルの作製に成功したことから、計画通り研究を実施した。 また、一部の症例ではTCRが同定でき、平成30年度以降に計画しているトランスフェクタントの作製、レパトア解析、さらにCTLの機能評価へ向けて準備ができている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成29年度の研究では、再不貧症例のうち、様々なphenotypeを有する症例の単球からiPS細胞を作製し、さらにHSPCを誘導し、免疫不全マウスに骨髄移植することにより、特定のphenotypeを有するヒト造血マウスモデルを作製することを計画した。 6pLOH陽性症例のうち、ハイリスクアレルであるHLA-B*4002を含んで片側のHLA発現が低下している例または、HLA-B*4002を保有する症例のうち、その遺伝子領域に変異を起こしている例も同定した。これらは、いずれもCTLによりHSPCが攻撃された結果、その標的分子を発現しているHLA分子の構造を変化させることにより、CTLからの攻撃をエスケープしている結果と考えられる。実際にCTLが標的にしている分子を同定するためには、それらの特有なHLA発現をもつHSPCが大量に必要であるが、平成29年度の研究で、計画通りiPS細胞を作製し、HSPCを誘導することに成功した。また、誘導したiPS細胞から様々なphenotypeのHSPCを誘導し、CD34陽性細胞に純化した後、BRGSマウスへ移植した。各phenotypeのヒト造血マウスモデルの作製に成功し、さらに一部の症例ではTCRが同定でき、平成30年度以降に計画しているトランスフェクタントの作製、T細胞レパトア解析、さらにCTLをH29年度に作製したキメラマウスに輸注することによる機能評価へ向けて準備ができている。また、作製したヒト造血マウスにおいて、xenograftであるHSPCごとに造血関連分子の発現を確認したところ、特定のphenotype由来のiPS細胞から誘導したHSPCを移植したマウスでは、いくつかの分子の発現に乖離が認められたことから、HSPCの挙動に対して何らかの機序が作用することにより、特定の造血集団では優位性を獲得している可能性が示唆された。
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今後の研究の推進方策 |
平成29年度の研究は、計画通りiPS細胞の作製、HSPCの誘導、そして特有のphenotypeを有するヒト造血マウスの作製に成功した。平成29年度に作製したマウスを基に対して、CTLによる病態を再構築する。そのために以下の実験を行う予定である。 1. 患者骨髄CTLのT細胞レセプターを同定する。 従来、CTLの誘導は、患者のCD8陽性T細胞を自己の造血幹細胞または細胞株で刺激する方法が用いられてきたが、培養の過程でT細胞が修飾されるため、in vivoで実際に機能しているT細胞とは別のCTLが増殖する可能性がある。従って、発症して間もない6pLOH陽性患者の骨髄中に集積している特定のT細胞と同じTCRを有するトランスフェクタントを作製し、再不貧の発症に直接関与しているCTLを同定する。 2. CTLの標的分子を同定する。 作製したヒト造血マウスに対して、特異的CTLを輸注することにより、6pLOH陰性マウスのみでCTLによる細胞傷害が認められる可能性が高く、マウス体内のヒトHSPCで6pLOHが陽性化した場合、再不貧の病態を正確に再現する。我々は6pLOHのハイリスクアレルであるHLA-B*40:02(B61)を単独で欠失している例を数多く同定している。これは、HLA-B*40:02(B61)に提示される分子がCTLの標的となる可能性が非常に高いため、HLA-B*40:02を細胞株に遺伝子導入し、この細胞株に対して、特異的な細胞傷害性を示したCTLの機能を評価するとともに、CTLの標的分子を同定する。また、NGSベースのRNAシーケンス(RNA-Seq)法によるトランスクリプト―ム解析、プロテオーム解析を用いて、6pLOH陽性と陰性のHSPCの間で、新規の転写産物を含む活性遺伝子または転写産物を比較し、特定分子の修飾や発現量の増減を検討するとともに、発現制御因子を同定する。
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