研究課題
基本的転写共役因子複合体メディエーターは、約31個のサブユニットからなり、RNAポリメラーゼIIホロ酵素複合体の構成成分である。メディエーターは基本的でありつつ、そのサブユニット構造により生理的な特異性をも担う。メディエーターのサブユニットMED1は、核内受容体特異的コアクチベーターとして同定されたが、その後GATA1など他にもいくつかの重要な転写アクチベーターの特異的コアクチベーターとして機能することが報告されている。MED1を欠損する間葉系前駆細胞は、特異的に造血幹細胞支持能が著明に低下する。そこで、間葉系前駆細胞でMED1の直接ないし間接の標的遺伝子を網羅的にスクリーニングしたところ、MED1依存性に強く発現誘導される約20個の遺伝子を同定した。これらのうち、該当年度は特にMGPに注目して解析した。MGPは骨に強く発現し、SMADを介して造血幹細胞を支持することが知られるBMP-2とBMP-4に結合する。骨髄造血細胞や白血病細胞と骨髄間質細胞の共培養系に抗MGP抗体を添加して観察したところ、正常および悪性造血幹・前駆細胞の支持能が顕著に低下した。MGPの発現は正常骨髄造血細胞では検出感度以下であったが、骨髄間質細胞を含め多くの間葉系細胞にはmRNAレベルでも蛋白レベルでも強く発現した。興味深いことに、骨髄間質細胞のMGPの発現は、造血細胞との共培養後に著明に上昇した。これらの結果より、骨髄間質細胞が発現するMGPは、造血ニッチにおいて、正常および悪性造血幹・前駆細胞の正の造血ニッチ分子である可能性が強く示唆される。今後、MGPが正常および悪性造血幹・前駆細胞の支持能を担当するメカニズムを詳細に詰める予定である。本研究は、MGPが造血微小環境でニッチ分子の1つを構成することを始めて提唱するものである。
2: おおむね順調に進展している
骨髄間質細胞が産生する、これまでに知られていない、新規の造血ニッチ分子を同定しつつあり、複雑な造血ニッチ環境の理解にユニークな貢献ができる可能性がある。
MGPが造血ニッチ分子を構成することを細胞生物学的にさらに検証するとともに、MGPとBMP-2ないし BMP-4との結合様式の生理機構を解析し、MGPがいかにして造血ニッチ機構を担うのかの分子メカニズムを詰める予定である。さらに、MED1の下流にあるMGP以外の分子についても、同様に詳細な解析を行い、MED1による造血ニッチ支持機構の全容を明らかにしたい。
少額の端数の残余のみであるので、無理に消化するよりも次年度の消耗品購入に有効に使用したいと考えている。
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Int J Hematol
巻: 印刷中 ページ: 印刷中
10.1007/s12185-018-2437-z
J Clin Exp Hematop
巻: 58 ページ: 24-26
10.3960/jslrt.17026