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2018 年度 実施状況報告書

カルバペネマーゼの活性上昇に関与するアミノ酸残基の網羅的特定と立体構造変化の解析

研究課題

研究課題/領域番号 17K09018
研究機関奈良県立医科大学

研究代表者

山本 惠三  奈良県立医科大学, 医学部, 准教授 (90254490)

研究分担者 矢野 寿一  奈良県立医科大学, 医学部, 教授 (20374944)
研究期間 (年度) 2017-04-01 – 2020-03-31
キーワードカルバペネマーゼ / 基質特異性 / 構造解析
研究実績の概要

平成30年度は、①IMP-6、及び類似酵素の構造解析実験、②第2世代の進化酵素遺伝子のライブラリーの作製を行った。
まず、IMP-6の構造解析については、従来、3.0 Å程度の分解能の回折データしか得られなかったのに対し、結晶化条件、及び液体窒素で凍結させる際の条件を精密化し、2.2 Åを超える回折データを与える結晶を得ることに成功した。ただ、その成功率がまだ低いため、放射光施設を用いて回折データの取集を続けている。
また、昨年度に進化実験で得られたY123N変異型酵素のアミノ酸置換部位は、活性中心から離れた部位にある。同様に活性中心から離れた部位にある1アミノ酸置換が基質特異性に影響を及ぼす例として、CTX-M-1β-ラクタマーゼのAla219→Valの変異が報告されている。Ala219は、CTX-M型β-ラクタマーゼにおいて高度に保存されている。そこで、この両者に共通する構造変化があるかどうかを探るために、本邦で多く分離されるCTX-M-2、及びA219V変異型酵素の構造解析を行った。ところが、両者の構造にはほとんど差がなかったとともに、酵素学的パラメータも差が見られなかった。従って、このアミノ酸置換により基質特異性が変化する現象は、CTX-M-1に特異的であることが示唆された。
一方、第2世代の進化酵素遺伝子のライブラリーの作製については、Y123N変異型IMP-6遺伝子に対しランダムなアミノ酸置換を導入した。pHSG398-IMP-6-Y123Nを保有する大腸菌は0.004 mg/mLメロペネムまで生育するため、得られた864コロニーについて0.016 mg/mLのメロペネムを含むLB培地で培養したところ、68コロニーの大腸菌について生育が見られた。それらの遺伝子配列を決定したところ、のべ39か所の変異点が判明した。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

3: やや遅れている

理由

当初の計画では、平成30年度において、IMP-6の立体構造解析が終了している予定であった。しかしながら、良好な回折データを与える結晶を得る結晶化、及び液体窒素保存条件の決定に時間がかかったために当該年度までの構造決定が行えなかった。このことについては、平成30年度中に結晶化条件、及び液体窒素で凍結させる際の条件を精密化し、2.2 Åを超える回折データを与える結晶を得ることに成功したとともに、平成31年4月にSPring-8でのデータ収集を行い、1.8 Å分解能の回折データを得た。既に3.0 Å分解能におけるIMP-6の構造を決定していることから、今回得られた回折データを用いて、原子レベルでの立体構造解析を行い、すでに立体構造が解明されているIMP-1との比較から、立体構造の違いと基質特異性の変化との相関関係の議論は可能であると考えている。
また、進化実験については、平成30年度にpHSG398-IMP-6-Y123Nを保有する大腸菌に対し第2世代の変異型酵素遺伝子を作成し、十分な母集団数についてのスクリーニングを行った。既にこれらの変異型酵素のDNA配列は決定しており、アミノ酸置換が導入された位置は決定している。現在、これらのアミノ酸置換が立体構造上どのような位置にあるかの解析を行っている。また、これらの変異型酵素についての詳細なMIC測定、及び酵素学的性質の決定を遂行している状況であるので、令和元年度は当初の計画に沿った実験が可能であると考えている。

今後の研究の推進方策

IMP-6の構造解析については、平成30年度に結晶化条件、及び液体窒素で凍結させる際の条件を精密化し、2.2 Åを超える回折データを与える結晶を得ることに成功したことから、平成31年4月にSPring-8でのデータ収集を行い、1.8 Å分解能の回折データを得た。すでに3.0 Å分解能におけるIMP-6の構造を決定していることから、今回得られた回折データを用いて、原子レベルでの立体構造解析を行い、すでに立体構造が解明されているIMP-1との比較を行うことで、両者の立体構造の違いを解明し、立体構造と基質特異性の変化との相関関係の議論を行う予定である。
第2世代の変異型酵素の解析については、既に十分な母集団数についてのスクリーニングを行ったうえ、個々の変異型酵素のDNA配列は決定しており、アミノ酸置換が導入された位置は決定している。そこで、これらのアミノ酸置換が立体構造上どのような位置にあるかの解析を行っている。また、これらの変異型酵素についての詳細なMIC測定、及び酵素学的性質の決定を遂行している状況にある。さらに、基質特異性の変化が見られた変異型酵素については、結晶化条件のスクリーニングを行い、構造解析実験を行う予定である。以上の実験を通して、IMP型β-ラクタマーゼにおいては、アミノ酸置換の導入によりどのように基質特異性が変化するか、アミノ酸置換の導入が立体構造に与える影響はどのようなものであるかという疑問に対する答えを得ていく予定にしている。

次年度使用額が生じた理由

今年度の予算執行において、次年度使用が生じた理由は、第2世代の変異型酵素の遺伝子ライブラリーは構築できたものの、それらを発現する大腸菌のMIC測定まで至らなかったことが原因である。現在、これらの変異型酵素についての詳細なMIC測定、及び酵素学的性質の決定を遂行している状況である。
また令和元年度は、基質特異性の変化が見られた変異型酵素については、結晶化条件のスクリーニングを行い、構造解析実験を行う予定である。これに必要な結晶化スクリーニングキットの購入を予定している。さらに、論文の投稿を予定している。以上を合わせると、令和元年度については、予定通りの予算執行が行えるものと考えている。

  • 研究成果

    (24件)

すべて 2019 2018

すべて 雑誌論文 (8件) (うち査読あり 8件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (16件) (うち国際学会 4件)

  • [雑誌論文] Indication of minimum inhibitory concentration of β-lactam antimicrobials for the primary extraction of IMP-producing Enterobacteriaceae.2019

    • 著者名/発表者名
      Saito K, Nakamura K, Harada R, Nakano R, Yano H, Kanemitsu K
    • 雑誌名

      Jpn J Infect Dis

      巻: 72 ページ: 68-70

    • DOI

      10.7883/yoken.JJID.2018.297

    • 査読あり
  • [雑誌論文] Antioxidative Pseudoenzymatic Mechanism of NAD(P)H Coexisting with Oxyhemoglobin for Suppressed Methemoglobin Formation2019

    • 著者名/発表者名
      Magohei Yamada, Takashi Matsuhira, Keizo Yamamoto, Hiromi Sakai
    • 雑誌名

      Biochemistry

      巻: 58 ページ: 1400-1410

    • DOI

      10.1021/acs.biochem.8b01314

    • 査読あり
  • [雑誌論文] Ring-Opening Polymerization of Hemoglobin2019

    • 著者名/発表者名
      Takashi Matsuhira, Keizo Yamamoto, Hiromi Sakai
    • 雑誌名

      Biomacromolecules

      巻: 20 ページ: 1592-1602

    • DOI

      10.1021/acs.biomac.8b01789

    • 査読あり
  • [雑誌論文] IMP-6メタロβ-ラクタマーゼの結晶構造解析2018

    • 著者名/発表者名
      山本惠三
    • 雑誌名

      SPring-8利用成果報告集

      巻: 6 ページ: 226-229

    • DOI

      10.18957/rr.6.2.226

    • 査読あり / オープンアクセス
  • [雑誌論文] Analysis of Dimeric ab Subunit Exchange between PEGylated and Narive Hemoglobins (α2β2 Tetramer) in Equilibrated State by Intramolecular bb-Cross-Linking2018

    • 著者名/発表者名
      Takashi Matsuhira, Tomoko Kure, Keizo Yamamoto, Hiromi Sakai
    • 雑誌名

      Biomacromolecules

      巻: 19 ページ: 3412-3420

    • DOI

      10.1021/acs.biomac.8b00728

    • 査読あり
  • [雑誌論文] Rapid identification of blaIMP-1 and blaIMP-6 by multiplex amplification refractory mutation system polymerase chain reaction.2018

    • 著者名/発表者名
      Nakano A, Nakano R, Suzuki Y, Saito K, Kasahara K, Endo S, Yano H
    • 雑誌名

      Ann Lab Med

      巻: 38 ページ: 378-380

    • DOI

      10.3343/alm.2018.38.4.378

    • 査読あり
  • [雑誌論文] Molecular epidemiology and clinical features of extended-spectrum β-lactamase- or carbapenemase-producing Escherichia coli bacteremia in JapanRisk factors for and outcomes of patients with extended-spectrum β-lactamase- or carbapenemase-producing Escherichia coli bacteremia in Japan2018

    • 著者名/発表者名
      Komatsu Y, Kasahara K, Inoue T, Muratani T, Yano H, Kirita T, Mikasa K
    • 雑誌名

      PLoS ONE

      巻: 13 ページ: e0202276

    • DOI

      10.1371/journal.pone.0202276

    • 査読あり
  • [雑誌論文] Emergence of VIM-2-producing Citrobacter freundii in Japan2018

    • 著者名/発表者名
      Ando S, Nakano R, Kuchibiro T, Yamasaki K, Suzuki Y, Nakano A, Mizuno T, Kasahara K, Yano H
    • 雑誌名

      Infectious Diseases (Lond)

      巻: 50 ページ: 862-863

    • DOI

      10.1080/23744235.2018.1498592

    • 査読あり
  • [学会発表] Ring-opening polymerization of loop-PEGylated hemoglobin2018

    • 著者名/発表者名
      Takashi Matsuhira, Keizo Yamamoto, Hiromi Sakai
    • 学会等名
      第67回高分子学会年次大会
  • [学会発表] Phycochemical characterization of poly-(PEG-hemoglobin) produced by ring-opening polymerization2018

    • 著者名/発表者名
      Takashi Matsuhira, Keizo Yamamoto, Hiromi Sakai
    • 学会等名
      第67回高分子討論会
  • [学会発表] Ring-opening Polymerization of Hemoglobin Using its Reversible Assiciation-Dissociation Equilibrium of α2β2 Subunits2018

    • 著者名/発表者名
      Takashi Matsuhira, Keizo Yamamoto, Hiromi Sakai
    • 学会等名
      The International Symposium for Materials Scientists III
    • 国際学会
  • [学会発表] Molecular characteristics of CTX-M β-lactamase-producing Escherichia coli isolated from livestock and human patients in Japan.2018

    • 著者名/発表者名
      Nakano R, Nakano A, Nishisouzu, Hikosaka K, Kasahara K, Ono Y, Yano H
    • 学会等名
      28th European Congress of Clinical Microbiology and Infectious Diseases
    • 国際学会
  • [学会発表] Emergence of multidrug-resistant Escherichia coli strain harbouring blaCTX-M-55, rmtB, and fosA3-encoding plasmid isolated from a food poisoning patient in Japan.2018

    • 著者名/発表者名
      Nakano A, Nakano R, Kasahara K, Suzuki Y, Ando S, Mizuno T, Mikasa K, Yano H
    • 学会等名
      28th European Congress of Clinical Microbiology and Infectious Diseases
    • 国際学会
  • [学会発表] Diversity of CTX-M β-lactamase genotypes among IMP-6 β-lactamase-producing Escherichia coli in Japan2018

    • 著者名/発表者名
      Mizuno T, Nakano R, Ogawa M, Suzuki Y, Nakano A, Ando S, Tanouchi A, Kakuta N, Masui T, Saito K, Kasahara K, Yano H
    • 学会等名
      28th European Congress of Clinical Microbiology and Infectious Diseases
    • 国際学会
  • [学会発表] 薬剤耐性菌の脅威~抗菌薬を大事に使おう2018

    • 著者名/発表者名
      矢野寿一
    • 学会等名
      日本耳鼻咽喉科学会島根県地方部会総会・学術講演会
  • [学会発表] 「One Healthと人獣共通感染症~臨床医と獣医の連携「新興ウイルス感染症ならびに薬剤耐性菌感染症」ヒトにおける薬剤耐性菌の現状と問題点2018

    • 著者名/発表者名
      矢野寿一
    • 学会等名
      第92回日本感染症学会学術講演会・第66回日本化学療法学会総会合同学会
  • [学会発表] 高度救命救急センターにおけるカルバペネム耐性腸内細菌科細菌によるアウトブレイク事例と分子疫学的検討2018

    • 著者名/発表者名
      酒井義朗、八坂謙一郎、中野竜一、矢野寿一、三輪涼子、渡邊浩
    • 学会等名
      第92回日本感染症学会学術講演会・第66回日本化学療法学会総会合同学会
  • [学会発表] 本邦で分離されたIMP-6産生大腸菌が保有するCTX-M型β-lactamaseに関する分子遺伝学的解析2018

    • 著者名/発表者名
      水野友貴、中野竜一、小川美保、鈴木由希、中野章代、斎藤恭一、笠原敬、三笠桂一、矢野寿一
    • 学会等名
      第92回日本感染症学会学術講演会・第66回日本化学療法学会総会合同学会
  • [学会発表] 尿から分離されたIMP-1産生Providencia stuartiiの解析2018

    • 著者名/発表者名
      宇井孝爾、小泉章、李相太、平位暢康、小川吉彦、笠原敬、鈴木由希、中野竜一、矢野寿一
    • 学会等名
      第92回日本感染症学会学術講演会・第66回日本化学療法学会総会合同学会
  • [学会発表] カルバペネマーゼNMC-A産生株の発現調節機構の解明2018

    • 著者名/発表者名
      中野竜一、山田友紀、中野章代、鈴木由希、諏訪部章、矢野寿一
    • 学会等名
      第92回日本感染症学会学術講演会・第66回日本化学療法学会総会合同学会
  • [学会発表] 薬剤感受性ディスクと液体培地を用いた迅速・簡便なカルバペネマーゼ産生菌研究法Carbapenamase Activity test:CAST2018

    • 著者名/発表者名
      斎藤恭一、中野竜一、中野章代、鈴木由希、遠藤史郎、矢野寿一、賀来満夫
    • 学会等名
      第92回日本感染症学会学術講演会・第66回日本化学療法学会総会合同学会
  • [学会発表] 臨床検体より分離されたカルバペネム耐性Providencia rettgeriの分子遺伝学的解析2018

    • 著者名/発表者名
      田内絢子、中野竜一、中野章代、鈴木由希、桝井貴史、角田尚紀、矢野寿一
    • 学会等名
      第92回日本感染症学会学術講演会・第66回日本化学療法学会総会合同学会
  • [学会発表] フィリピンの環境水から分離されたカルバペネマーゼ産生腸内細菌科の分子遺伝学的解析2018

    • 著者名/発表者名
      鈴木由希、中野竜一、中野章代、田内絢子、南菜央、堀内沙央里、角田尚紀、桝井貴史、中島一敏、矢野寿一
    • 学会等名
      第88回日本感染症学会西日本・第61回日本感染症学会中日本・第66回日本化学療法学会西日本
  • [学会発表] 薬剤耐性菌の基礎、AMR対策における薬剤耐性菌の知識2018

    • 著者名/発表者名
      矢野寿一
    • 学会等名
      第58回日臨技近畿支部医学検査学会

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公開日: 2019-12-27  

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