研究課題/領域番号 |
17K09023
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研究機関 | 東京工科大学 |
研究代表者 |
岡崎 充宏 東京工科大学, 医療保健学部, 教授 (40734869)
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研究分担者 |
岸井 こずゑ 東京工科大学, 医療保健学部, 助教 (10629570)
花尾 麻美 東京工科大学, 医療保健学部, 助教 (40756920)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 薬剤耐性菌 / 医療関連感染 / one health approach / ESBL産生大腸菌 / カルバペネマーゼ産生大腸菌群 / モニタリング / 河川水 |
研究実績の概要 |
近年,医療関連施設における薬剤耐性菌による感染や死亡事例といった社会性のある問題が世界的に増加し,その対策は,医療現場だけの問題ではなく,すでに社会生活を営む健常人を含めた環境問題として包括的な対策(one health approach)が重要である。ゆえに,研究代表者らは,多摩川河川が東京都民の水道水源およびレクリエーションなどの場であることからその重要性に鑑み,薬剤耐性菌株のヒト-環境間における循環の解明及び感染予防に役立たせるための汚染状況の調査を行った。 2017年度は,MRSA,ESBL産生大腸菌群,カルバペネマーゼ産生大腸菌群(CPE)及びキノロン耐性Stenotrophomonas maltophiliaの薬剤耐性菌株の検出を行った。河川水の採水(中流域;春季に1回)及び前処理(メンブレンフィルター法)は,環境省が定めた試験方法に準じて行った。その際に各薬剤耐性菌株を効率的に検出するために市販の選択培地を用いた。検出した菌の菌種同定は,従来法及びMALDI-TOF MS法を使用し,薬剤耐性株の判定はCLSIに準拠し行った。 その結果,MRSA及び高度キノロン耐性S. maltophilia株は検出されなかった。ESBL産生大腸菌の検出率は,総大腸菌株のうち3.1 %(10株/320株)を占め,ESBL遺伝子型は,CTX-M-9が40%,CTX-M-1が30%と有意であった。大腸菌を除く,ESBL産生大腸菌群ではKlebsiella pneumoniaeが最も有意に検出された。一方,CPE株はCMI判定ではすべて陰性であった。 以上のことから,本河川はESBL産生大腸菌群による汚染が認められ,薬剤耐性菌のリザーバー及び循環の源となっている可能性について継続的なモニタリングを行っていく予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初計画した今年度の課題は,①採水時期と採水地点の固定,②採水した河川水からの薬剤耐性菌株の分離方法の検討,③調査の対象とする薬剤耐性菌のスクリーニングの方法の検討, ④薬剤耐性菌の菌種名の同定及び薬剤耐性遺伝子検出方法の検討,の4点である。①に関しては,環境省の定める時期に準拠するとともに,採水地点については先行論文と同一の場所を選択し,再現性の良い結果が得られている。②③に関しては,市販のMRSA選択培地を,薬剤耐性大腸菌群の検出には,特定酵素基質培地であるECC寒天培地,クロモアガーESBL培地及びクロモアガー mSuper CARBA生培地を使用することにより対象菌を鑑別することに有効な培地であることがわかったが,MRSA選択培地を除く培地は,多数の抗菌薬に自然耐性を示す自然環境生息菌のブドウ糖非発酵菌(GNFR)及びエロモナスなどの汚染菌の発育を認め,目的菌の集落の釣菌に支障が発生した。そこで,継代培養に嫌気培養を追加して行い,オキシダーゼテストの併用によりこれらの汚染菌を効率的に除外し,その支障を除去することが可能であった。④に関しては,当菌種同定には当初の16S rRNAシーケンス法の実施を変更し,MALDI-TOF MS法により迅速かつ低コストな実験が可能であった。また,薬剤耐性遺伝子解析も予定通り実施し,検討を進めている。以上を総合すると,これらのすべての項目について実験を実施し,検討を行い,これまでに学会発表を行っている点で概ね順調に成果をあげていると判断される。
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今後の研究の推進方策 |
1)引き続き対象とした薬剤耐性菌株を分離・収集し,薬剤耐性遺伝子の検出及びMLST解析を順次行っていく。しかし,本実験において河川水から大腸菌以外のESBL産生大腸菌群を分離し,すべての分離菌株で菌種同定を行ってきたが,感染症の原因菌としてはほとんど考慮されない菌種の検出が多く,本研究に関連する意義は低いと考えられる。この点で臨床において極めて問題となっているKlebsiella属及びProteus属に絞った菌種の検出を試みることに変更し,本菌属を分離するためのクロモアガーESBL培地での発育形態の特徴を検討し,効率的な実験方法の構築を行う。 2)対象菌枠を拡大し,VRE, Clostridium difficileの分離・同定を行う。しかし,これまでに,これらの菌種についての河川における調査は,本邦ではほとんど行われていないことから方法の確立を目的とする。原則は環境省の定めるMF法を実施し,検出の有無により液体培地を用いた増菌培養法を試みる。 3)近年,中国においてコリスチンやポリミキシンB耐性菌株の報告が認められ,臨床的に問題提起されている。養豚場の下流域における河川水からの検出も報告され,河川への流出が危惧されている。本邦では愛玩動物から検出されたとの報告があるが,河川を含む環境からの検出はない。今後,本菌株の挙動をモニタリングすることは必要であることから本調査にコリスチン耐性大腸菌群の検出を追加する。検出方法は,既存の論文に従いコリスチン含有の液体培地を作製し増菌培養を行った後,コリスチン含有のECC寒天培地にて分離を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
分離菌種の同定検査に既存のキットを用いて行う予定のところMALDI-TOF-MSを使用したため低コストとなったが,2018年度は,両者を併用して再同定を行う予定である。また,2017年度に実施しなかったが,当初の予定研究であるVRE,C. difficile及びコリスチン耐性株の分離・培養同定検査を進捗させるため2017年度残金と2018年度の交付金を合わせた金額を使用予定である。その内訳は,当初の計画とほぼ同様で,消耗品,MLST解析及び結果の発表などの目的に使用する予定である。
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