研究課題
骨髄異形成症候群(myelodysplastic syndromes;MDS)は生命にかかわる血球減少に加えて急性骨髄性白血病に移行しやすい難治性の造血障害であるが、発症と病型移行の分子機構には未解明の点が多い。応募者はMDS患者由来の細胞株およびそれから急性白血病への変貌をインビトロで再現し得た一連の亜株、計8つの細胞株をすでに樹立しているが、それらに加えて細胞株樹立の発端となった患者骨髄検体とそれを3カ月間培養途上で得た細胞集団からもDNAを抽出し、合計10検体のゲノムにおいて全エクソン塩基配列解析をおこない、ゲノムの変化を相互比較することによって病型進展に関わる遺伝子変異を探索した。その結果判明したこととして、(1)患者骨髄検体においてTP53変異があり、加えて約9%の細胞分画にCEBPA変異が検出された、(2)インビトロ培養の過程でTP53変異とCEBPA変異を有する分画が増殖し、さらに途中でNRAS変異が付加されて細胞株として樹立された、(3)分化成熟能を保持している細胞株から成熟能を喪失した芽球性亜株が出現する段階でヒストンH3(K27M)変異が付加された、以上の遺伝子変異が段階的に出現して一連の細胞株の成立につながったと解釈できた。ヒストンH3(K27M)変異が付加された亜株において、同変異の特異的阻害薬とされているGSK-J4を加えたが、特異的な増殖抑制効果は見られなかった。一方ヒストンH3(K27M)変異が付加された亜株は同変異をもたない亜株に比べてIL-3依存性が強いことが見出された。すなわちヒストンH3(K27M)変異株はIL-3存在下では同変異をもたない亜株よりも増殖旺盛であったが、逆にIL-3非存在下では同変異をもたない亜株のほうが長期生存する傾向を示した。この現象は腫瘍化からその増生に至る過程での環境因子の重要性を示唆するものであった。
2: おおむね順調に進展している
各検体のゲノム(全エクソーム)解析の基本部分はすでに完了しており、相互の比較検討が進行中であるが、まだその全貌を把握するには至っていない。しかし研究実績の概要で述べたように、異常クローンの出現・進展とさらなる悪性化の鍵となるであろう遺伝子変異の蓄積を具体的に確認できつつあり、有意義な結果と考えられる。ヒストンH3(K27M)変異の意義づけがまだ不完全であり、特異的阻害薬の有効性の判定や遺伝子操作による影響の有無を見る実験がまだ進んでいない点が課題である。
ヒストンH3(K27M)変異の意義づけが重要課題であり、阻害薬実験、遺伝子発現の操作による変化を検討する必要がある。また本変異がIL-3増殖シグナルにどう関わるのかを探るのも有意義であると考えている。TET2遺伝子変異が一部の亜株に見られているので、その意義を解明していく必要がある。これらの検討を重ねていくことによって、この一連のMDS細胞株の有用性をさらにアピールできればと考えている。
今年度研究計画の一部である遺伝子操作実験がまだ進んでいないため、その使用予定額を次年度に計上した。
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