研究課題
本研究において、がん悪性化進展を制御する膜型メタロプロテアーゼ(MT1-MMP)による細胞膜上でのプロテオリシスが産生する様々な基質のプロセシング断片を同定し、それらをがん細胞の特異的な指標とした新たながん診断法への応用を試みた。まず、がん特異的な指標を同定するために、膵がん細胞表層のMT1-MMPプロテオリシスによる基質断片を免疫沈降で検索したが、同定した断片が線維芽細胞においても発現していること明らかとなり、がん特異的に発現する膜蛋白質からのプロセシング断片を見出すことができなかった。次に、先行研究で見出したMT1-MMPによりプロセシングを受けるヘパリン結合性EGF様増殖因子(HB-EGF)とEphA2の特異的な検出法を検討した。まず、HB-EGFのMT1-MMPによるプロセシングで生じるN末端を欠損したHB-EGF断片(tra-HB-EGF)に対する特異抗体(265)をファージディスプレイ法によるヒトFab抗体ライブラリーから樹立した。本特異抗体と既存のポリクロ抗体を用いたサンドイッチELISAは、血清中に添加した10ng/mL以上のtra-HB-EGFを測定すること可能であった。しかし、がん患者血清中のtra-HB-EGFをウエスタンブロットで検討したところ、1 ~10 pg/mLであることが明らかとなり、発光検出系による感度アップを図ったが、がん血清中の1~10 pg/mLの抗原を検出するには至らなかった。また、EphA2のMT1-MMPによるプロセシングで産生するEphA2遊離断片を定量するための発光検出系を樹立した。この測定法は10pg/mL以上のEphA2遊離断片を検出することができた。この断片が高濃度に存在する膵癌血清中のEphA2遊離断片を検出した結果、健常人と比較して優位に高い濃度でEphA2断片が存在することが明らかとなり、本遊離断片は今後の膵癌診断法開発のための重要な指標になると考えられる。
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