ラットに3週間の慢性拘束ストレスを負荷するとラット後肢に有意な機械的感覚過敏が生じた。そして、下行性疼痛調節系の吻側延髄腹内側部でMeCP2陽性細胞の有意な増加が認められた。MeCP2は標的遺伝子のメチル化されたプロモーター領域と結合し転写を抑制すると考えられている。しかし、この慢性拘束ストレスモデルでは、吻側延髄腹内側部においてDNAメチル化は減少していた。MeCP2は標的遺伝子のメチル化されていないプロモーター領域と結合し、pCREBと複合体を形成して標的遺伝子の転写を活性化する。さらなる検討の結果、吻側延髄腹内側部でpCREB陽性細胞の有意な増加が認められ、MeCP2陽性細胞の約90%にpCERBの共存が認められた。これらのことは、慢性ストレス後、吻側延髄腹内側部における、活発な標的遺伝子の転写を示唆するものである。さらに、慢性拘束ストレス群とコントロール群で、下行性疼痛調節系やその活動をコントロールする高位中枢において、ストレス性痛覚過敏に関連する CCKB、Tac1、Neurotensin、CCKBR、MOR1、NK1R などの発現をPCRにて検討した。その結果、下行性疼痛調節系の重要な構成要素である吻側延髄腹内側部においてMOR1の発現がPCRで増加することが確認された。慢性拘束ストレスによる吻側延髄腹内側部における MOR1 の発現増加にMeCP2が関与しているか否かを検討するため、慢性拘束ストレス群とコントロール群の吻側延髄腹内側部において、MORのプロモーター領域へのMeCP2の結合をクロマチン免疫沈降アッセイにて検討した。残念ながら、現在まで有意差には至っていないが、今後、個体数を増やし、新規計画の中で検討を続ける予定である。
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