研究課題/領域番号 |
17K09041
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研究機関 | 東京慈恵会医科大学 |
研究代表者 |
池田 亮 東京慈恵会医科大学, 医学部, 講師 (20439772)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 関節運動時痛 / 変形性膝関節症 / メカノレセプター / 機械刺激性疼痛 |
研究実績の概要 |
超高齢社会に突入した本邦において変形性膝関節症(膝OA)で苦しむ患者数は増加傾向にあり、潜在的な数を含めると約2400万人以上と推定されている。その主たる症状である関節痛は、疼痛暴露の長期化に伴い侵害受容性疼痛に神経障害性疼痛が付随した複雑な疼痛に発展する。関節運動や荷重などの機械刺激はこの疼痛を増強し、不安や不快感などの「負情動」成立を促進して生活の質(quality of life: QOL)を著しく低下する。膝OAの新たな治療法や評価法の確立を目指すためには、関節痛発症機序の解明が重要になる。そこで、運動時痛における機械刺激応答関連分子の意義を明らかにするため、成熟SDラット(生後6週雄、200g前後)から本研究に必須である膝OAモデルを作製した。外科的に左膝前内側冠状靭帯を切除することで生じる半月板不安定性の外傷性膝OAモデルと、monosodium iodoacetate (MIA)を左膝関節内に注入することで生じる炎症性膝OAモデルの2種類の動物モデルを確立し疼痛評価を行った。関節炎評価として足底の間接機械刺激による疼痛閾値、関節前後および内外側径、体重の3項目を、関節運動時痛評価としてCatwalkによる歩行解析を、膝関節への直接機械刺激による疼痛評価をpressure application measurementで行った。いずれのモデルでも関節炎は経時的に成立し、足底の間接的機械刺激に対する疼痛閾値は対象と比較して有意に低下していた。MIA群に行った歩行解析では、患側接地面積の有意な減少と跛行の出現を認めた。しかしながら、DMM群に行った膝関節に対する直接機械刺激では対象群との間で疼痛回避様行動に明らかな差を認めなかった。これらの結果から、膝OAモデルの種類によって、関節炎は確かに発現するものの疼痛発現の強度や期間に差があることが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初の計画通り、本研究において必要不可欠となる膝OAモデルを安定して供給できるよう、作製手技と疼痛評価を確立するため行動実験を繰り返した。残念ながらモデル間での差異が著しく、関節運動時痛を再現するための適切な評価項目を検討中である。今回使用したSDラットから膝関節を支配するL3およびL4DRGを摘出することは可能であったが、より短時間で組織の侵襲を低減した手技の習得に時間がかかることが推測される。摘出したDRGからホモジネートを作製し適切に保存したが、標的分子の評価にまで達していない。
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今後の研究の推進方策 |
今後はマウスでも同様の安定した動物モデル作製を確立し、膝関節支配DRGを摘出する。膝OAが機械刺激応答関連蛋白、特に哺乳類のDRGで初めて同定されたメカノレセプターPiezoチャネルの発現量に与える影響を、保存したSDラットDRG のホモジネートとあわせ遺伝子解析する予定である。原因分子が明らかに出来れば、遺伝子ノックダウン法を用いて行動実験を行うことを検討する。さらに機械刺激性疼痛の長期暴露によって変化する情動的側面についても、小動物用MRIを用いて検討を行い、急性炎症との違いを評価する。
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次年度使用額が生じた理由 |
科研費申請時に本研究実施のために必須と考えていたDigital paw pressure randall selitto meter 2500を購入した場合、実験動物費を含めた消耗品費の使用が困難であった。そこで、より簡便かつ低価格で同様の行動評価が可能なPressure application measurementへ機種変更した結果、本年度の使用額が計画よりも減少した。OAモデル疼痛評価でのばらつきを軽減するため、適切な関節痛評価を客観的かつ低侵襲で行えるwheel running testを検討している。この評価法で必要な器機について、次年度使用額を利用し購入する予定である。
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