研究課題/領域番号 |
17K09041
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研究機関 | 東京慈恵会医科大学 |
研究代表者 |
池田 亮 東京慈恵会医科大学, 医学部, 講師 (20439772)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 関節運動時痛 / 変形性膝関節症 / メカノレセプター / 機械性疼痛 |
研究実績の概要 |
運動器疾患の中でも有病率の高い変形性膝関節症(膝OA)は、関節運動や荷重などの機械刺激によって痛みが亢進する複雑な侵害性疼痛が特徴である。痛み刺激の長期暴露は、末梢から中枢にいたる痛覚伝達経路に可塑性を導くだけでなく、疼痛回避のための安易な不動化によって、筋力低下や関節拘縮が導かれ、不安や不快といった負の情動体験が固定化して難治性の慢性痛へ発展する。膝OA発症時の後根神経節(DRG)ニューロンにおける機械受容関連分子の発現変化や、より高位中枢である脳機構の関与を評価することは、痛みの慢性化を適切に把握して治療するために重要と考える。昨年度から導入した9.4テスラの小動物用高磁場MRI装置を用いて、膝OAモデルマウスの脳画像の安定した獲得を目指し、実験機器の調整と手技の確立を行った。膝OAモデルは、C57BL/6マウスの片膝にMIAを注入して作製、経時的な関節炎の成立評価と足底の機械刺激による間接的疼痛閾値を確認した。ヒトの日常生活に類似した荷重時痛を再現するため、行動パラメーターの自動計測可能なトレッドミル機器を利用した。その結果、MIA注入後3日目には関節炎が成立し、機械刺激に対する疼痛閾値と下り坂での運動能力がコントロール側と比較して有意に低下することが明らかになった。作製したモデルマウスは最終行動評価時にMRIで撮像、終了後に麻酔科下に膝関節支配DRG(L3-5)の摘出を行った。得られた脳画像から膝OAに関連する脳神経核の同定を画像解析ソフトで行い、摘出DRGからPiezo2を中心とした機械作動性チャネルの発現量をRT-PCRで計測した。本実験で得られた結果とこれまでの研究成果を踏まえて、膝OAの痛みに関連する機械受容のメカニズムを生物学的意義とともに考察し、関連する整形外科学、疼痛学の分野で発表、論文執筆を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
MIAモデルの疼痛行動評価は、SDラットからC57BL/6マウスに種類を変更しても、比較的安定した結果を得ることができた。この膝OA動物モデルを用いて、MIA注入後約1ヵ月の最終評価時に脳のMRIを撮像した。研究開始当初は、モデル動物の頭位固定を一定に保つことが困難であったため、麻酔法の変更と固定器具の改良を重ねた。実験の繰り返しで再現性のある撮像が可能になったため、得られたデータを画像解析ソフトに取り込み、膝OAに関連する上位神経核を探索している。また、昨年度同様、摘出した膝関節を支配するL3-5 DRGからホモジネートを作製し、機械作動性チャネルとして注目されているTRPA1, TRPV1, Piezo1, Piezo2の4分子についてRT-PCRを行った。摘出検体量が微量のため、検体数を増やし、正確な判定のために必要なプライマー調整を継続している。
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今後の研究の推進方策 |
DRGの機械作動性チャネル発現量の変化をMIAモデルとコントロール群で比較し、膝OAの発症との関連を検討する。痛みを修飾する不快な機械刺激の長期暴露が導く中枢神経系の可塑的変化を、MRIで撮像した脳機能画像で計測して解析を行う。標的分子や組織が明らかになれば、遺伝子学的手法を用いてより強い証明を行う。得られた研究成果は、学術集会で発表後、疼痛関連の国内および国際誌に公表する。
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次年度使用額が生じた理由 |
課題遂行のために必須と考えていたRandall Selitto法による客観的疼痛評価が精度不十分であったため、トレッドミル MK-690/RMを購入して行動実験を再計画した。これにより、安定した痛み評価が得られるようになり、実験計画を進めることが可能になった。膝OAモデルから摘出したDRGに発現する機械刺激応答分子量の解析や脳機能画像計測で必要になる消耗品および解析ソフトを含む機器を、延長申請で得られた次年度使用額を用いて購入予定である。また、作製した動物モデルの飼育維持費および発表や論文投稿で必要になる旅費や英文添削などの研究成果報告費として有効に使用する。
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