研究課題
慢性痛で生じる扁桃体亜核ネットワークにおける可塑的変化の成立に対する内因性ノルアドレナリンの意義を解明することを目的とし、以下の実験を行った。ドパミンβヒドロキシラーゼプロモーター下にCreリコンビナーゼを発現するDBH-tTA-2A-Cre BAC Tg rat孤束核にCre依存的チャネルロドプシン発現用アデノ随伴ウイルスベクターを局所感染させた。8週間以上経過した後に扁桃体を含む急性脳スライス標本を作製し、青色光により孤束核由来ノルアドレナリン神経終末を刺激し内因性ノルアドレナリンの放出を誘導し、腕傍核-扁桃体中心核シナプス伝達および扁桃体ニューロン興奮性への影響を評価した。その結果、以下を見出した。(1)連続光刺激によって、いくつかのニューロンにおいて腕傍核-扁桃体中心核間興奮性シナプス後電流振幅の微増または微弱化が確認できた。(2)細胞外ノルアドレナリン再取り込み阻害薬duloxetine存在下では1の反応が亢進する例があった。(3)同様にduloxetine存在下、光刺激による過分極活性化非時間依存的不活性化型カチオンチャネル電流の振幅の変化がわずかに認められる例があった。(4)以上の1~3を炎症性疼痛モデル動物と対照群動物とで比較、および、責任受容体の薬理学的解析を試みている。現在まで、疼痛の有無による顕著な違いは見いだせていないが、その原因として、扁桃体中心核におけるノルアドレナリン神経終末分布エリアと記録ニューロンとの関係性、および、光によるノルアドレナリン神経の刺激パターンの妥当性に検討の余地があること、そして、記録ニューロンにおいて過分極活性化非時間依存的不活性化型カチオンチャネル電流が微小であることなどの新たな課題が見出された。次年度はこれらを再検討した上で疼痛存在下での内因性ノルアドレナリン作用の影響の解析を進める。
3: やや遅れている
ノルアドレナリン神経終末での十分なチャネルロドプシンの発現に時間を要し、実験条件検討のフィードバックに時間がかかってしまう点が研究全体の進捗の遅れの主要な原因となっている。
ノルアドレナリン神経終末でのチャネルロドプシン発現に時間を要する点については、次年度は本年度行った実験条件の試行錯誤の成果を受け研究推進の効率が上がることが予想されるが、加えて異なるノルアドレナリン神経核へのチャネルロドプシン発現を試みるなどの対策を講じる。さらに、内因性ノルアドレナリンの放出を直接検出することができるノルアドレナリンセンサーを利用し、内因性ノルアドレナリン放出誘導の最適な刺激パターンを検討し、現在行っている疼痛存在下での扁桃体シナプス伝達への内因性ノルアドレナリン作用の評価・解析をより効率よく行う予定である。
本年度注文した消耗品の納品に予想以上に時間がかかり、年度を越えた納品となり支払いが次年度になったため次年度使用額が生じた。これにより研究の進捗はわずかに遅延したものの、当該消耗品を使用する以外の実験を先に行うなどして対応したため、研究全体の推進自体に大きな影響はない。
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すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 3件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (5件) (うち国際学会 3件) 備考 (1件)
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http://www.jikei-neuroscience.com/website/publications/index.html