研究課題/領域番号 |
17K09043
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
坪井 美行 日本大学, 歯学部, 講師 (50246906)
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研究分担者 |
浅野 正岳 日本大学, 歯学部, 教授 (10231896)
奥村 雅代 松本歯科大学, 歯学部, 講師 (10362849)
三枝 禎 日本大学, 松戸歯学部, 教授 (50277456)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 末梢神経 / 神経障害性疼痛 / 伝導ブロック |
研究実績の概要 |
炎症時や末梢神経障害時には、正常時には無害な機械刺激(触刺激や風)により激烈な痛みが生じるアロディニアの症状が発現する。アロディニアは、低閾値機械刺激情報がAβ神経により伝導され、その情報が2次ニューロン以降の侵害受容性中枢神経系を駆動し疼痛が発現するとされるが、侵害受容性2次ニューロンのA神経入力の処理については不明な点が多い。そこで本研究では、末梢神経障害による中枢神経系の可塑的変化による応答性の変化の中にA神経の入力がどの程度関与しているかを、行動学的、電気生理学的に調べることを目的とした。末梢神経のどの成分がどの程度2次ニューロンの応答性に貢献しているかを調べることが出来るのがこの研究の特色である。疼痛モデル動物の脊髄後角では、神経障害性疼痛ではAβ神経により伝導される入力が増加し、炎症ではC神経により伝導される入力が増加することが予測される。さらにAβ神経により伝導される入力を遮断することによりアロディニアの発現が抑えられると考えられる。この動物実験を基に将来ヒトに応用できるアロディニアなどの痛覚発現に対して、AβおよびAδ神経線維をターゲットとした新たな治療方法が確立されることが予想される。 初年度は末梢神経伝導遮断のシステムを完成させて、神経伝導遮断の効果の確認を行った。イソフルラン吸入麻酔(2-3%)下で、坐骨神経の枝を電気刺激し脊髄に入る直前で末梢神経束を確保して複合活動電位を記録した。さらに、臀部を走行する坐骨神経に伝導遮断のための薬物投与用チャンバーを装着した。細胞外双極電極を用い複合活動電位を記録し、Aα、Aβ、Aδ神経線維の成分が判別できるように峰別れを観察した。神経遮断システムが働いているかどうか、フラジェリン/QX-314投与(Aβ神経遮断)や0.2%リドカインをチャンバー内に投与し、各神経線維の成分の遮断状況(時間経過、振幅など)を確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
最終的に脊髄侵害受容ニューロンに各種末梢神経の入力がどの程度投射しているか、それが炎症時や神経障害時にどの程度入力の割合が変化するかを調べることを目指し、第1段階としてin vivoで Naiveラットにおいてフラジェリン/QX-314投与(Aβ神経線維の伝導遮断)および0.2%リドカイン(細い神経=C神経線維伝導からブロックする)を用いた伝導ブロックの時間経過を検索すべく研究を行った。軟組織の中を走行する坐骨神経束に薬を投与するためのチャンバーの形状と投与の仕方で、液漏れなどが生じ、結果の再現性が取れなかった。それを解決するのに時間がかかった。また、個々の動物で遮断薬の効果が一定ではないので、最終的に脊髄へ投射する入力をモニターする必要があると考え、脊髄へエントリーする直前の後根で神経束から複合活動電位を観察する方法を開発するのに時間がかかった。 現在、腰神経L4、L5の神経束から坐骨神経または腓骨神経電気刺激に対する複合活動電位が記録できた。その結果、Aα神経線維活動(伝導速度30-55 m/s)、Aβ神経活動(14-30 m/s)、Aδ神経線維活動(2.2-8 m/s)に別けること、すなわち峰別れ現象を記録できた。峰別れ現象を記録後、フラジェリン/QX-314投与をチャンバー内へ投与し、ラットでもAβ神経伝導遮断を確認した。投与20分でAβ神経伝導遮断が出来き、その遮断効果は長時間(2時間以上)続き、回復は確認できなかった。また、リドカイン(0.2%)投与による各種神経の伝導遮断経過は、投与開始約10分でAδ神経の伝導遮断が、さらに約5分後にはAα神経の伝導遮断が記録された。その伝導遮断効果は、約2時間で、その後Aα神経の伝導は回復した。坐骨神経へSpared Nerve Injuryを施すことにより、神経障害性モデル動物の作成が可能な状態になっている。
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今後の研究の推進方策 |
脊髄侵害受容ニューロンへのAδ神経線維成分の関与を調べるために、Aδ神経遮断としてICA Nav1.1 channel blockerを投与して、複合活動電位のAδ神経線維活動成分が消失する濃度、時間経過を観察する。naiveとSpared Nerve Injury(SNI)を施した動物、足底に起炎物質のComplete Freund's adjuvant(CFA)を注射した動物を用いて行う。それらの末梢神経を摘出し電位依存性ナトリウムチャネル(Nav1.1)の免疫組織学的に同定する。 上記の実験後、足の皮膚の入力を受ける脊髄後角ニューロンから単一神経活動を記録、さらには脊髄へのエントリー直前の腰神経の後根(L4、L5)から電位を記録する。腓骨神経に電気刺激用電極を装着する(wire 電極)。ニューロンの反応特性を記録した後、記録電極と刺激電極の間の坐骨神経を薬物投与用チャンバー内に保持し、フラジェリン単独投与またはフラジェリン/QX-314投与(Aβ神経線維の伝導遮断)を投与後15分経過時にニューロンの応答特性を記録する。その後、Aδ神経遮断としてICA Nav1.1 channel blockerを投与し、再度刺激に対する応答を記録する。また、神経障害モデル動物、慢性炎症モデル動物で同様の記録を行い、脊髄侵害受容ニューロンへ投射するAβやAδ神経性分の変動をコントロール動物(シャム手術群、vehicle投与群)のものと比較検討する。 このことにより、神経障害性疼痛や慢性炎症性疼痛において求心性A神経線維の2次ニューロンへ投射成分比率の変化を記録でき、疼痛に関与する神経線維成分を解明する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初薬物投与のためのチャンバーがうまく機能せず結果の再現性が得られなかったので、データ取得及び解析用PCの購入を控え、薬物投与のシステムと複合活動電位記録のシステム構築にその資金を回した。薬物投与システムは当初慢性投与も見越したものを開発することを試みたがうまくいかず、まずは急性投与用チャンバーを開発することにした。それに掛かる材料費は身近にある安価な歯科材料などの応用で開発できたので、費用が掛からなかった。また、データの取得が充分ではなかったので、学会発表を控えた。これらのことが繰越金が生じた理由である。 次年度使用額と平成30年度助成金を合わせて、1,292,400円を主に実験動物、伝導ブロックのための薬剤、ニューロン活動を記録する電極、Aδ神経の標識や伝導ブロックのための抗体等の消耗品購入に充てる計画である。
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