本研究では,アルツハイマー型認知症(AD)を対象に,従来の「画像特徴量」に「遺伝子情報」を加えて解析する次世代型コンピュータ診断支援システム(CAD)の開発を行った.遺伝子情報として,アルツハイマー関連遺伝子であるAPOEの遺伝型に着目した.APOEの型がAPOEε4の人はADを発症しやすく,APOEε3の人はADになりにくいことが知られている.これまでの画像予防医学では,病気を早期に発見するために,画像検査が利用されてきた.もし,個人の遺伝型で画像所見が異なるなら,画像検査の際にそれらの違いを考慮することによって,病気を早期に発見できる可能性がある.本研究によって,以下の成果を得た.(1)MR画像に対して大きさと位置合わせを行う脳形態標準化処理を行ったのち,各年代の正常標準脳を求め,正常標準脳からの萎縮の程度を定量化する手法を開発した.(2)軽度認知障害(MCI)とADの患者群でAPOE遺伝子型に応じて,脳萎縮の部位に違いがあることを示した.(3)正常老化による脳萎縮も考慮し,時間的かつ空間的な脳萎縮の推移を低次元固有空間で表現する手法を考案した.この手法を用いることで,60代の正常とADの鑑別実験ではROC曲線以下の面積(AUC)が0.911,70代の正常とAD では 0.874,80 代の正常とAD では0.824の結果を得た.個人の遺伝型を考慮した新しい概念のCADシステムによって,「未病」から「発病」への病態変化を早期に発見することが期待できる.
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